第7話 コンプリート

「な、なんとか間に合ったなピピョーン……」


「この感じは、尿瓶しびんか?」


「うむ、その通りだピピョーン」


「そうか。ありがとう、マスターじいさんマスター」


「どういたしましてピピョーン」



「あ、あ、あああ、おおっ、しゃべれただぜだぜ!!」


「そのしゃべり方、アルゥか!?」


「そうだぜだぜ! おはようだぜだぜ!!」


「おはよう…… って、挨拶している場合じゃない! なんで入れ替わっているんだよ!?」


「そんなの知らないだぜだぜ!」


「元に戻せ!」


「なら、とりあえず、前に言った通り、外を走ってみるだぜだぜ!」


「マスターじいさんマスターの話を聞いていたのか?」


「ああ、聞こえていただぜだぜ! そのちょっと前に、目が覚めていたからなだぜだぜ!」


「そうだったのか」


「それじゃあ、外に行くだぜだぜ! ……と思ったけど、その前に飯を食おうだぜだぜ!」


「そうだな」


 腹が減ってきたしな。



「そういえば、なんで入れ替わってしまったのだろうか? 気をしっかり持っていたぞ。多分」


「ならば、不明だピピョーン」


「そうか……」


 なぜなのだろうか?


 疲れすぎたせいなのかな?



 アルゥは朝食を取り、外に出た。


「よっしゃ、行くだぜだぜ!! うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」


 そして、庭を走り回った。


「おおっ、気持ち良いだぜだぜ!」


「そいつは良かったな」


「なんだか少し羨ましい気がするですだぜ」

「私もですです」



「はぁはぁ…… つ、疲れただぜだぜ……」


「走りすぎだろ…… もう夕方じゃないか……」


「楽しくて、ついやってしまっただぜだぜ……」


「そうか…… 満足したか?」


「ああ、しただぜだぜ!」


「満足したのに、戻らないな」


「まだ何か望みがあるのでしょうしょうか?」


「そんなの特にないだぜだぜ」


「なら、なぜなのだろうか?」


「考えるのは、あとにして、休もうだぜだぜ」


「うむ、腹も減ってきたですだぜ」


「そうだな」



 夕食を取った。


「ああ、なんか満腹になったら、眠くなってきただぜだぜ」


「そうだな。風呂に入って寝よう」


「うむ、そうしようですだぜ」



 次の日。


 まだ体が動かないな。


 それに、またトイレに行きたくなってきたぞ。


 アルゥを起こすか。


「おい、アルゥ、起きろ! トイレに行ってくれ!」


「ああ、親父、おはようだぜだぜ」


「おはよう。早くトイレに行ってくれよ」


「ああ、分かっただぜだぜ。 ……ん? あれ!? なんだこれはだぜだぜ!? 体が動かないだぜだぜ!?」


「ええっ!?」


「それに目も開けられないだぜだぜ!」


「な、なんだって!? どういうことなんだよ!?」


「あっ、口を動かしている感覚がないだぜだぜ!」


「えっ!? どういうことだ!?」


「俺は元に戻っているのかもしれないということだぜだぜ!」


「じゃあ、なんで俺は動けないんだよ!?」


「他の誰かと入れ替わっているんじゃないだぜだぜか?」


「ええっ!?」


「親父、ロッドソードとエルゥを起こそうだぜだぜ!」


「そうだな! ロッドソード、エルゥ、起きろ!!」


「ふたりとも朝だぜだぜ! 起きろだぜだぜ!!」



「おはようございますます。お父様、アルゥ、どうしたのですですか?」


「おはよう、エルゥ! 俺の体を動かせるか!?」


「いいえ、動かせませんせんよ。どういうことですですか?」


「なら、今度はロッドソードと入れ替わったのか!?」


「えっ、そうなのですですか?」


「多分な! とにかく、ロッドソードを起こそう!」


「もう起きているですだぜ! それと、我が親父殿の体にいるみたいですだぜ!」


「やはりそうだったのかよ!?」


「うむ、とりあえず、トイレに行くですだぜ!」


「ああ、そうしてくれ!」



 ロッドソードが用を足した。


 こ、これがロッドソードになるということなのか!?


 新感覚だな!?



 部屋に戻って来た。


「それで、ロッドソードは何をしたいんだよ?」


「我も外を走ってみたいですだぜ」


「そうなのか。では、走りに行こうか」


「うむ、飯を食ったあとにですだぜ!」


「そうだな」



 朝食を取ったあと、外を走り回った。


 ロッドソードは満足したようだが、元には戻れなかった。


 仕方ないので、夕食を取って、風呂に入って、就寝した。



 次の日。


 今日もまた動けないぞ。


 毎朝恒例のトイレにも行きたくなってきた。


 仕方ない、ロッドソードを起こすか。


「おーい、ロッドソード、起きろ! トイレに行け!!」


「むっ、ああ、おはようですだぜ、親父殿」


「親父、おはようだぜだぜ」


「おはよう、ふたりとも。さあ、トイレに行ってくれ」


「了解したですだぜ。むっ、おかしいですだぜ!? 体が動かないですだぜ!?」


「俺も動かせないだぜだぜ!」


「じゃあ、今日はエルゥかよ……」


 これで右、真ん中、左のすべてになったな。


 うれしくないコンプリートだ。



 エルゥを起こし、望みを聞いてみた。


 エルゥも外を走ってみたいと言ったので、走ってもらった。


「はぁはぁ、満足しましたした……」


「それは良かった。元には戻れなかったけどな」


「親父、入れ替わりが起こるのは、寝ている時なんじゃないだぜだぜか?」


「確かに、昨日きのう一昨日おとといもそうだったな。なら、今日寝れば、元に戻るのかな?」


「うむ、その可能性が高いですだぜ」


「では、飯を食って寝るか」


「はい、そうしましょうしょう」



 次の日。


「おおっ、元に戻っているぞ! 良かった!」


「良かったですだぜ!」

「ああ、そうだなだぜだぜ!」

「おめでとうございますます!」


 左側から、ガギアキースセギトたちの声が聞こえてきた。


「ああ、ありがとう、みんな…… ん?」


 今、何かがおかしくなかったか?

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