第2話 ぴピョぴょピョぴょでざまぁ

 仙人みたいなじいさんに抱きかかえられて、自宅を出た。


 後ろで母さんが泣いているようだ。


 もしかして、これが今生の別れになるのだろうか?


 あの様子では、そうなのだろうな。


 しゃべれないから、心の中で挨拶をしておくか。


 父さん、母さん、短い間でしたが、お世話になりました。


 どうか、お元気で。



 仙人みたいなじいさんは、俺の家の向かいにある西洋風の豪邸に入った。


 えっ!?

 ナニソレ、まさかここが目的地なのか!?



 ベッドに寝かされた。


 やはりここが目的地みたいだな。


 近くない?


 なんでさっき、今生の別れみたいな雰囲気になっていたんだ?


 もしかして、関係者以外、入っちゃいけないところなのかな?


 その可能性が高そうだな。



 というか、なんのために、ここに連れて来たんだ?


 珍者ちんしゃを隔離するためなのだろうか?


 なんのために、そんなことを?


 訳が分からなさすぎるぞ。



 さて、これからどうするか?


 とりあえず、情報を集めてみようかな?


 まずは、この部屋を調べてみるか。


 周囲には、おもちゃと思われるものが大量に転がっている。


 子供部屋って感じの場所だな。


 結構広いな。


 黒白のメイド服を着た小太りの優しそうなおばさんが、ひとりいる。


 子守役の人かな?


 目ぼしいものはないから、部屋を出てみようか。



 おばさんに捕まって、出ることはできなかった。


 まあ、捕まらなかったとしても、ドアノブに手が届きそうにないから、結局出られないんだけどな。


 仕方ない、成長するのを待つとしようか。


 とりあえず、運動して、体力をつけよう。


 部屋の中で運動しまくって、出された食事をすべて平らげた。


 早く大きくなれよ、俺。



 次の日。


 母さんが普通にやって来た。


 そして、しばらくの間、俺と遊んで帰って行った。


 なんじゃそりゃぁっ!?


 お前、なんで昨日、今生の別れっぽく泣いてたんだよ!?


 訳が分からないぞ!?



 五日が経過した。


 俺は相変わらず、運動して、食って、寝ている。


 本当に、なんで俺はここに連れて来られたのだろうか?


 意味が分からないなぁ。



 メイド服を着たおばさんが本を持って来てくれた。


 これで情報が得られるかもしれないぞ!


 ありがとう、おばさん!


 あっ、文字が日本語だ。


 なんでだ?


 まあ、いいか。

 考えても分からないしな。


 それよりも、この本を読んでみよう!



 表紙には『ぴピョぴょピョぴょ太郎』と書いてある。


 これがタイトルみたいだな。


 これは主人公の名前なのかな?


 だとすると、妙な名前だな。



 本を開いた。


 そこには『むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました』と書いてあった。


 それと、洋服を着たおじいさんとおばあさんが、家の中で椅子に座っている絵が描かれていた。


 これは絵本のようだな。


 『ある日、おじいさんは会社へ、おばあさんは川の近くにあるカフェへお茶をしに行きました』


 おじいさんは働いているというのに、おばあさんはカフェで茶かよ!?


 これは男女差別だな!!


 『おばあさんは店長から、ぴピョぴょピョぴょを六個もらいました。常連客へのサービスだそうです』


 ミカンみたいな絵が描かれているな。


 ぴピョぴょピョぴょって、ミカンのことだったのか。


 もしかして、そこからぴピョぴょピョぴょ太郎が出て来るのか?


 『おばあさんは家に帰り、ぴピョぴょピョぴょを全部食べてしまいました』


 おい、おばあさん。

 あんた、おじいさんにも分けようという気持ちはないのか?


 ひどくないか?


 まあ、どうでもいいか。


 ん?

 そういえば、ぴピョぴょピョぴょ太郎はどうしたんだ?


 まさか食われた?


 いや、そんなまさかな……

 絵本なんだから、そんな展開はないだろ……


 『仕事の終わったおじいさんは、おばあさんへのおみやげにぴピョぴょピョぴょを五〇個買いました』


 ちょっと買いすぎじゃないか?


 まあ、いいけど。


 あっ、そうか。

 ここからぴピョぴょピョぴょ太郎が出て来るのか。


 『おじいさんはおばあさんと一緒に、ぴピョぴょピョぴょを食べました』


 おじいさんは分けるのか。

 良い人だな。


 『突然、おばあさんのお腹が痛くなってきました。どうやらぴピョぴょピョぴょを食べすぎたようです』


 ざまぁ。


 『めでたしめでたし』


 えっ!?

 これで終わり!?


 おばあさんがちょっと痛い目を見ただけで、何もめでたくないぞ!?


 それに、ぴピョぴょピョぴょ太郎は、どこに行ったんだ!?


 タイトル詐欺だぞ!?


 なんなんだ、このくだらない本は!?

 投げ捨てたくなってきたぞ!!


 いや、待てよ!?

 ここで喜んでおけば、おばさんが違う本を持って来てくれるかもしれないぞ!!


 よし、やってみよう!


 俺は本を持ちながら、大げさに喜んでみた。



 次の日、メイド服を着たおばさんが違う本を持って来てくれた。


 作戦大成功だな!


 さて、これはなんの本なんだ?


 表紙には『ぴピョぴょピョぴょ太郎・セカンド・フルバースト』と書いてあった。


 なんじゃそりゃぁっ!?

 意味が分からないぞ!?


 まあ、とりあえず、読んでみるか!


 おじいさんとおばあさんが合体して、ぴピョぴょピョぴょ太郎になり、悪を倒す話だった。


 意味が分からなかったが、また大げさに喜んでおいた。



 次の日も、メイド服を着たおばさんが本を持って来てくれた。


 ちょろいもんだな!


 さて、今日の本は何かな?


 『ぴピョぴょピョぴょ太郎・サード・フルバースト』じゃないだろうな?


 俺は本の表紙を見てみた。


 えっ!?

 こ、これは!?


 表紙には『珍者ちんしゃイデザテレオーズの冒険』と書いてあった。


 な、なんだと!?

 珍者ちんしゃの本だと!?


 やったぞ!

 これでようやく珍者ちんしゃというものが分かるぞ!


 ありがとう、おばさん!!


 では、さっそく読んでみよう!!



 『むかしむかしむかしかし』と書いてあった。


 むかしかし?


 すごいむかしってことなのか?

 それとも、ただの脱字なのか?


 まあ、どうでもいいか。


 『あるところに珍者ちんしゃイデザテレオーズさんがいました』と書いてあった。


 それと、よろいを着て、剣を持ったイケメンお兄さんが描かれていた。


 なんかこれから戦闘しますって感じの格好だな。


 珍者ちんしゃは、そういう人なのか?


 『ある日、珍さんは仕事に行き、帰って来て、寝ました』


 珍さん!?

 ちょっと略しすぎじゃないか!?


 それと、この一文必要なの!?

 絵もベッドで寝ているだけだし!!


 このページ自体、いらなくないか!?


 『ある日、世界になんかすごいのが現れました』


 なんかすごいのって、なんだよ!?

 曖昧すぎだろ!?


 絵の方も、なんか黒っぽいだけだし!


 『なんかマズい気がした王総理大統領は、珍さんの家にやって来ました』


 王総理大統領って、何!?

 偉い人なのか!?


 なんで体にモザイクがかかった絵が描いてあるんだ!?

 まさか全裸なのか!?


 『王総理大統領は、珍さんに高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変になんとかしてくれと頼みました』


 ナニソレ!?

 珍さんに何をしろと言うんだよ!?

 訳が分からないぞ!?


 『王総理大統領は、報酬は前金が百億ジィアカ、成功報酬が三百億ジィアカで頼むと言いました。珍さんは良かろうと言って、金を受け取りました』


 生々しい!?

 幼児用の絵本に書くな!?


 ん?

 ジィアカ?

 これってリミバカオス・ゼビリピードの通貨の単位と同じだな。


 どういうことなのだろうか?


 まあ、いいか。


 『珍さんは前金を使って、遊びまくりました。そして、お金を使い切ってしまいました』


 良いのかよ、珍さん!?


 あと、これ、幼児に読ませて良いものなのか!?


 『珍さんは旅に出ました。そのあと、なんやかんやあって、世界は平和になりました。めでたしめでたし』


 省略しすぎぃぃぃっ!!!!!


 なんやかんやって、なんだよ!?


 そこはちゃんと書けよ!?


 『珍者ちんしゃイデザテレオーズの冒険』って、タイトルなんだぞ!?


 なんなんだよぉ、これはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!



 あれ?

 まだ続きがあるぞ。


 めでたしめでたしと書いておきながら、なんであるんだよ?


 まあ、いい、読んでみよう。


 『珍さんは成功報酬を使って、遊びまくりました。そして、お金を使い切ってしまいました。おしまい』


 そんなのどうでもいいっての!!



 ふぅ、気分が落ち着いたな。


 頭が冷えた状態で、もう一度この本を読んでみよう。


 うーん、この珍者ちんしゃというのは、世界平和のために何かと戦う人なのかな?


 ゲームの勇者的なポジションだったりするのか?


 どうなんだろうな?

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