1番星

宮里 京

結び

出したばかりのマフラーを首に巻き、手袋をした手をさらにジャンバーの両ポケットに突っ込む。「はぁ、、、」ため息と同時に白い息が吐き出され夕空へと吸い込まれる。


いつもの学校の帰り道、今日は特段と寒かった。12月も来ていないのに雪は降り始め都会から田舎の大学に来た俺は凍え死にかけていた。

「寒い、、、」

マフラーに手袋、重ね着の上にジャンバーと11月とは思えない服装をしても寒さからは逃げきれない。教室の周りを見ても田舎育ちは慣れているのかこんな重装備は俺だけだった。


そんな俺がここ最近で唯一暖まれるのは一緒の電車で通う星野さんとの通学時間だけだった。学校に来てからも話すほどの仲ではないが電車の中で登下校時にだけ話す時間がとても好きだった。

「今日も寒いね」

「寒いね〜 今日のテスト勉強した?」

「え、何それ」

「え」

「え…」

特に大事な話がある訳でもないが聴いていて落ち着き暖かくなるようなトーンで話す彼女に最近惹かれているように感じる。

何か話さなくてはと思いスマホで話題を探すと天気ニュースに流星群がピークであると書いてある。

「きょ、今日の夜流星群ピークなんだって!」

「?」星野は何それと言った顔だ

「あ、流れ星が一気に流れるみたいなやつ、星に興味無い?」

星野はまだピンと来て居ないらしい

「星座とかさ!俺は今の時期だとオリオン座が好きかな」

なんとか話を続けようと必死に話題を出す

「星座はわかんないや。学校帰りに見える1番星が綺麗で好きなくらい」

「あぁ、、一番星、、、いいよね…」

思わぬ回答に言葉が詰まる。

そんな電車も10分程度で着きそこから学校までの10分間はただ無言の時間が続くだけだ。

勿論学校についてからもそうだ。

学校では完全に交わることも無くただ目で追うような形になっている気がする。

「おーーい。おーい。おい。聞いてんのか」

「あ、ごめん」

「最近遠くの方ボーッと見たまんま虚無に浸ってること多いけどどうした?まさか恋でもしてんの?」

そう言いながらニヤっと笑うのは宮西だ。俺が大学に入り唯一友達と言える存在。

「恋なんてしてません。クリスマスも一緒に過ごしてやるから安心しろ」

「誰がお前なんかと貴重なクリスマスを……よろしくお願いします」

そんなやり取りが日常の俺たちだった。


学校終了のチャイムが鳴りみんな一斉にクラスを出る。電車の時間に合わせて俺は他の人より20分近く教室を遅く出る。「今日も一緒だ」

学校から駅までの小道を歩く星野の姿が見えた。

「一緒に並んで帰ることが出来たらこんなにな寒くないんだろうな」

そう考えながらポケットに両手をツッコミため息を吐く。真っ白息が地面に刺さるように1人下を向き駅へと向かう。



「へ???」

朝の通学時間、周りの人が振り返るような変な声が思わず飛び出る。

「学校終わりの電車の時間、1本ずらしてスーパー行くの着いてきてくれない?」

変な声が出るのも無理はないだろう。なんせあの星野さんからお誘いがあったのだ。

「え、あ、もちろんいいけど、、」

スーパーに行くだけなのに緊張して声が詰まる自分に恥ずかしくなる。

4限目の授業が終わったら教室でまっててね。

そう言うと最寄り駅に着いた電車のドアが開きまた無言の時間が続く。

「お前、なんか顔キモくない?」

休み時間に宮西が声をかけてくる

「は??失礼極まりないヤツめ いつもの顔だよ」

「あ、確かにいつも通り すまんすまん」

「どこまでも失礼なやつだな」

そんな顔をしながら口角を確認する。

確かに朝の電車を降りて以降口角が上がりっぱなしな気がする。「これじゃ常にニヤついてる気持ち悪いやつだな。」

そう思いながらも放課後が楽しみで仕方なかった。

どうにか4限目を終えチャイムと同時に生徒は帰っていく。

ただスーパーに一緒に行くだけなのに今日1日ずっと緊張しっぱなしで脈が早いのが自分でもわかる。

「あ!いたいた。それじゃ行こ〜」

明るい声に呼ばれ教室を飛び出す。

「寒いね〜」

「そ、そうだね」

寒いと言いつつ俺は寒さを感じていなかった。なんと言っても憧れの星野の隣を歩いているのだからそれどころではなかった。

「いつも学校帰り何してるの?」

「イヤホンで音楽聞きながら帰ってる」

「何も考えずに?」

「うん」

さすがに「隣に並んで帰りたいとか思ってる」なんて口が裂けても言えない。

お目当てのスーパーに着き星野は温かい肉まんとお菓子を書い外に出る。

「え、それだけ?」

思わず口に出る。自分を呼ぶくらいだから沢山の買い物をし荷物持ちにでもさせられるのかと思っていた。

「そうだよ? はい。半分あげる」

そう言ってホカホカの肉まんを半分手渡してくれた。

「え、いいの貰って。」

「どうぞ〜」

そう言いながら星野は温かい肉まんを口いっぱいに頬張る。

「温まる〜〜!!」

そう言いながらこぼれる満面の笑みの可愛さに思わず笑みがこぼれる。

「実はね?少し電車外でも話してみたくてさ」

思わぬ発言に黙ってしまう

「電車の中では時々話すけど、学校では一切話すことないじゃん?少し話せたらなーって思って今日呼んだの」

思わぬ内容で呼ばれたことに驚きが止まらない。

「わざわざ電車まで送らして迷惑だったね ごめんね」

そう言って謝るがこちらからするととんでもない

「いや、全然迷惑じゃないよ、僕も話してみたかったし…」

「そう?良かった」

彼女は安心したのか笑顔がこぼれている。

「やっぱり可愛い。」

そんなことを思いながら話題を探すが焦ってなかなか出てこない。

「あ、やばい。電車の時間!」

星野が思い出したかのように時間を確認し急いで肉まんを頬張る。

「急ご!次逃すと遅くなるから」

そう言って早足で歩き始める。

「危な〜 間に合って良かったね」

軽く息が上がった状態で電車に乗りこみいつものようにどうでもいい話をする。

10分の時間がいつもより早く感じる。

直ぐに降車駅に到着してしまった。

「あ、あのさ!」

思わず声がでかくなる

「明日も一緒に帰ろうよ」

今日初めて自分から声を出した。

「うん!」

星野の返事に安心した俺は降車後、家に着くまでずっとマフラーも巻かずに帰っていた。


それから1ヶ月俺と星野は一緒に登下校していた。学校では話すことは無いが学校までの小道は毎日2人で歩いていた。

「明日から冬休みか〜」

「ついに長期休みだね」

そんな内容の薄い会話は今でも変わっていなかった。

「今日の放課後1本遅らせて帰らない?」

「え、いいけど スーパーでも行くの?」

「そうそう。」

長期休暇で会えない時間が来る前に少しでも会おうと俺は悪あがきする。

「キーンコーンカーンコーン」

4限目が終わりみんな 「冬休みだ!」といつもより勢いよく教室を出ていく

「それじゃスーパーへレッツゴー!」

そう言いながら寒い小道を並んで歩く。

1ヶ月も話せば少しは慣れたのだろう。前よりもスムーズに話せるようになった。

コンビニで前と同じ肉まんとお菓子を買い半分を星野へあげる。

ホカホカの肉まんを頬張った顔はやはり可愛かった。

「12月にもなると暗くなるのも早いね」

星野が空を見上げながら言う。

「ほんとだ今にも星が出そう。」

うっすらと明かりが残る空を見て言う。

「あ!見て!!一番星!!!」

星野が宝物でも見つけたかのように声をあげる。

「え、どこ」

「ほら!あそこじゃん」

「見えない…」

「うそ、あそこあそこ」

そう言いながら星野が指を指す

「あ、ほんとだ」

うっすらと光る明かりが見える。

「ちっちゃい星で大袈裟だなぁ」

そう言いながら横に並ぶ星野を見ると

目をキラキラと輝かせ眺めていた。

「私、一番星好きなんだよね なんの星かは知らないけど、とても綺麗で」

そう言いながら空を見上げる星野の瞳は今まで見たどの星よりも輝いていた。

「あれはベテルギウスじゃないかな」

星野はいきなりの情報にキョトンとしている

「オリオン座の中で一番明るい星だよ。冬を代表する星」

星野はさらに目を輝かせた。

「凄い!よく知ってるね」

目を輝かせながら言う

「多分だよ。場所的にそうなんじゃないかなってだけ。そんな宛にしないでね」

そう言いながら笑う。

星野は静かに言う

「一番星って夜になると沢山出てくる星の中で先頭じゃん?その一番星の周りに多くの星が出てきて、私はよく分からないけど星座となって空に輝くって考えたら。星と星の先導員 結び役って考えたら素敵じゃない?」

そう言いながらニコッと笑う

「星と星の結び役か〜」

そう言いながら澄んだ空を見上げる星野を横目に見る

「一番星が結んでくれたら良いな」

そう言うと俺はまた星野の横で歩き出す。

明るく輝き始めた一番星を見ながら

「いつか結んでくれますように。」と。











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1番星 宮里 京 @kyou_miya

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