決死の言い訳
そして帰宅した俺は。
「で、どういうことか説明してくれるのよね? 理太郎?」
目のハイライトが消えた姉貴に、絶賛尋問されている最中だった。
両手で首を掴まれ、足が宙に浮いている俺は生殺与奪を姉貴に握られている。
「どういうこと? 愛好と付き合ってるってなに? お姉ちゃんに嘘ついてたの? 理太郎はお姉ちゃんには嘘つかないと思ってたのにそうなんだ嘘ついちゃうんだ。お姉ちゃんが一番好きじゃなかったんだ。お姉ちゃんのこと裏切るんだ。どうせ理太郎はお姉ちゃんがどうなってもいいんでしょ」
「ギ、ギブ……」
首を絞められているのでギブアップの合図として姉貴の手をポンポンと叩くが、一向に降ろしてくれる気配がない。
俺は仕方がないので、なんとか声を絞り出して言い訳をする。
「姉貴……これは違うんだ」
「へぇ、何が違うの? 愛好と付き合ってたんでしょ?」
「違う、俺と付き合ってたんじゃないぐぇっ」
「……またお姉ちゃんに嘘つくの?」
きゅっ、と首を絞める力が強くなった。
まずい、そろそろ意識が落ちる気がする。
俺は最後の力を振り絞って言葉を紡ぐ。
「嘘じゃない。愛好は俺じゃなくて、萌園アリスと付き合ってるんだ……!」
「……どういうこと?」
少し手の力が緩んだ。
(勝路……っ!!)
俺はさらに姉貴へと言葉を重ねる。
「だから、愛好は俺が好きなんじゃなくて、萌園アリスが好きなんだよ。俺は別に好きでもなんでもないんだ」
「でも、理太郎がアリスちゃんなんでしょ……?」
「そうだけど、俺とは付き合ってないんだよ」
「……ちょっと意味が分からないんだけど」
疑問符を頭に浮かべた姉貴が手を緩めて、地面に落とした。
「実は……」
そうして、俺は姉貴に今までのことを話した。
怒られそうなところはちょっとぼかしたけど。
「これで分かったでしょ。愛好は別に俺のことなんか好きじゃないんだ。それどころか「アリスちゃんを付き合う上で逆に邪魔」って言ってたし」
そして、その言葉を聞いた俺はちょっとだけ泣いた。
「なるほどね……二人の間には勘違いがあったと」
「そうそう、そうなんだよ」
「ふぅん……なぁんだ! そういうことなのね!」
さっきまでの表情から一転、姉貴はニコッと笑みを浮かべた。
「なによもー、紛らわしいから勘違いしちゃったじゃない。そういうことなら今回のことは特別に許すわ!」
「誤解が解けたなら良かったよ……」
俺はほっと安堵する。
「ええ、良かったわ。もし誤解だって知らなかったら……どうなるか分からなかったから」
手を合わせてうふふと笑う姉貴。
その冷たい笑みを浮かべている姉貴を見て、俺は心底誤解が解けて良かったと思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます