デートの続き

「あ、愛好……! ちょっと待って……!」


 スタパを出て離れたところで俺たちは立ち止まる。


「どう? 成功したでしょあたしの作戦」

「いや、確かに抜け出すのは成功したけど! 俺このあとどうすればいいんだよ! 家に帰ったら絶対に追及されるされるやつじゃん!」

「それは……頑張って」


 愛好は俺の肩にポン、と手を乗せてどこか諦めたような表情と共にサムズアップしてくる。


「おい!」

「ちなみに、あたしはほとぼりが休むまで学校休むから」

「まさか俺を売ったのか!?」

「あははっ」


 どの道姉貴の待っている家へと帰らなきゃいけない俺と違って、愛好には逃げる手段がある。

 頭を抱える俺を見て何がおかしいのか、愛好は笑った。

 そして小悪魔みたいな笑みを浮かべて、上目遣いに尋ねてきた。


「じゃあ……あんたもほとぼりが冷めるまでウチ泊まってく? ずっとアリスちゃんの格好しててもらうけど」

「それは無理」


 愛好の家には両親もいるし、何よりずっとアリスの格好でいるなんて気が鎮まらない。


「だよね。私も困るし」

「はぁ、今から帰るのが憂鬱だ……」

「よし、そういうことなら今日はぱーっと楽しみましょ」

「それ、最後に良い思い出を作って逝かせてやるとか、そういう意味だよな」

「細かいこと言ってないで、ほら行くわよ」

「行くってどこに?」

「デートに決まってるじゃん。折角お洒落してきたのに、このまま帰るなんて勿体無いでしょ?」

「それは確かに……」

「はい、じゃあ決まりね。あんたは今からアリスちゃんに……うーん、やっぱりいいわ」


 愛好は悩んだあと、そう言った。


「なんで? アリスじゃなくて良いのか?」

「なんかそういう気分じゃなくなっちゃった。着ぐるみの中を見ちゃった感じ」

「なんとなく分かるけど、俺を中身とか言うな」

「だから今日はあんたで良いわ。あ、でも見た目はそのままね」


 愛好は前を歩き出す。

 前まではアリスの格好で『俺』を出すことをあんなに嫌がってたのに、愛好も変わったものだ。

 そんなことを考えながら、俺は愛好の後を追って歩き出した。


 それから、俺と愛好のデートが始まった。


 まずは何やら最近SNSで流行っている、ハートの形のモニュメントの前で記念撮影。

 なんか愛好と一緒にハートを作らされた。


 お次は「男子の目線が欲しい」という愛好の言葉で洋服を選びにショッピングへ。

 愛好の服に意見を述べるのと同時に、色々と着させられた。


 そして、俺達はアニメグッズの専門店へと向かった。

 愛好と俺で、自分たちのグッズがどんなふうに置かれているのか見に行くのだ。

 大量に置かれたグッズたちを見てテンションが上がった俺達は、それぞれ自分のキーホルダーを買う。


「見て見て、あたしここに付けちゃった」


 愛好は自分のバッグに恋城らぶのキーホルダーをつけていた。


「じゃあ俺はスマホにしようかな」


 スマホのカバーにストラップをつけるところがあったので、俺はそこにキーホルダーをつけた。


 俺はこの際なので、気になっていることを愛好に聞いた。


「そういえば、萌園アリスのどこを好きになったんだ?」

「う〜ん。そう言われるとちょっと分からないけど、そもそも惚れっぽい性格なのよね。あたし」

「まぁ……それはわかるな」


 最初に出会った時の反応とかを思い出しても、うん、そうだろうなと思う。

 かなりチョロ……。


「あ、言っとくけどチョロいとか言ったら許さないから」


 愛好が釘を刺してくる。

 俺は内心で冷や汗をかきながら、表面上は笑顔で頷く。


「分かってるって」

「でもアリスちゃんは本気だったから。そこは勘違いするんじゃないわよ」

「別にしてない」


 そんなことを話しながら歩いている時だった。


「うっわ、なにあれ」


 背後から声が聞こえてきた。

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