気がついてしまう姉
「つまり、理太郎は萌園アリスちゃんとして活動してて、愛好とは事務所で知り合ったのね?」
騒動の後、一旦落ち着いた姉貴、俺、愛好は取り敢えずスタパへとやって来た。
こういう男女の話の時は人目のあるカフェで話した方がいい、と友人から聞いたことがあるのだ。
……相手が無闇矢鱈に襲って来なくなるからだとか。
姉貴はカフェオレ、俺はチャイラテ、愛好はフラペチーノを頼んでいた。
姉貴と愛好に向かって、俺は改めて事情を説明する。
「……もう一回見ても信じられないわ。本当に理太郎なの?」
「ああ、もちろん俺だよ姉貴。流石に……人目もあるしウイッグは取れないけど」
「……なんだ、そういう関係じゃなかったのね。安心したわ」
愛好は何故か胸に手を当て、ホッと安心したような息を吐いていた。そういう関係ってどういう意味だ?
まぁいいか。
「そうそう、だから全部誤解なんだよ。二人はどういう勘違いだったの?」
大体分かってたけど、俺は二人にどんな勘違いをしていたのかと尋ねる。
「えっと、萌園アリスちゃんが愛好と理太郎どっちとも付き合ってて、二股してるんだと思ってた」
「あたしは……ううん、やっぱりなんでもない」
愛好は何かを言いかけたものの、口を閉ざしてフラペチーノを啜った。
(よし、これで全部解決……)
俺がそう安堵しかけた時。
「そう言えば、二人はなんで今日ここに来てたの?」
「えっ?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「それは今日……」
姉貴になぜここにいるのか説明しようとして、俺は慌てて口を閉ざした。
俺と愛好の歪な関係を姉貴に話せば、どんな反応をされるか分からない。
恐らく確実に蔑まされるだろう。
そしてその後めちゃくちゃ怒られるだろう。説教五時間コースだ。
それは嫌だ。なんとか誤魔化さないと……。
「え、えっと。今日は……」
なんかいいパスくれない? という意味の視線をチラチラと愛好に向ける。
すると愛好は頷いた。
「私とアリスちゃんは……」
「ちょっと待って今のなに」
姉貴が食い気味に聞いてきた。
「え、今のって……?」
「今愛好と目配せしなかった? しかも仲良さそうに」
い、今の一瞬のやり取りを感じ取ったのか……!?
な、なんて洞察力だ……!
「理太郎? これはどういうことか説明しなさい」
姉貴は笑顔で両手を組んで机に肘をつき、首を軽く傾げた。
「え、えっとね理奈。これはね、その……」
「よくよく考えたらおかしいわ。なんで愛好が理太郎が女装してることを知ってるの? 私ですら理太郎の女装を見破れなかったのに」
「それは……」
言えない。『色々と確認したから』なんて。
俺と愛好は冷や汗をかく。
「ちょっと待って、そう言えば二人とも、事務所で会ったときに……」
「あのね理奈、私達付き合ってるの!」
「え、ちょっ……!?」
愛好がいきなりそんなことを言い始めたので、俺は目を見開く。
そんなこと言ったら姉貴が俺に対して怒るに決まってるのに。
……あれ、でもさっきから姉貴が静かだな。
不審に思った俺が、姉貴がどんな反応をしているのかと恐る恐るそちらを見てみると……。
「………………?」
姉貴はショートしていた。
プシュー、と頭から湯気を出している。
多分、今日はいろんな情報が一気に頭に詰め込まれたから、愛好の暴露で頭がパンクしたんだ。
「よし、今の内に逃げるわよ!」
愛好はこうなることが分かっていたかのようにそう言うと、俺の手を取りスタパから連れ出した。
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