解かれる誤解

 おかしくなった姉貴が、俺に対してスタンガンを押し付ける力を、さらに強くした。

 バチバチ、と電気を放つスタンガン。


「ちょ、なんで強くなってんの!?」

「黙りなさい! 私の理太郎を返しなさいよおおおッ!!!」

「顔は死ぬ! 本当にやばいから! うおおおおおッ!」


 泣きながらスタンガンを押し付けようとする姉貴。

 押し付けられるスタンガンを押し返す俺。

 なぜか姉貴の言葉に感激している愛好。

 状況は混沌としていた。


「ちょっと待って! どっちも納得してるんだよ!? 何が悪いの!」

「どっちも納得してるのが更にたち悪いのよ!」


 駄目だ、話が通じない……!

 だんだん周囲の視線が集まってきた。


『ねー、あれ見て』

『なにあれ』

『なんか痴話喧嘩みたい。あの金髪の子が二人に二股してたんだって』

『えっ、あの二人に? すごいねー』


 まずい、周囲の視線が集まってきた。

 それに俺の不名誉な噂が広まっている気がする。

 どうにかして一度落ち着かせて別のところで話さないと。


「取り敢えず落ち着いて! 別の所で話さないと……」

「あんた!」


 その時、愛好が俺の名前を呼んだ。

 まさか誤解が解けたのかと思い、そっちを向けば。

 愛好は俺を指差す。


「私は二股なんて認めて無いんだからね!」

「そっち!?」


 俺が女装してることについての話じゃないの!?


「ほら、納得してないじゃない!」

「く……っ! また話が拗れだした!」

「許さないんだから……萌園アリス!」


 姉貴の力が更に強まり、スタンガンが徐々に近づいてくる。

 しかし焦ると同時に、俺はその姉貴の言葉に違和感を覚えた。


 なんで俺を名前じゃなくてアリスの名前で呼ぶのか、と。

 もしかして女装している俺に配慮してくれてるのかと思ったが、今の姉貴の状態で俺にそんな気を回すとは思えない。


 その時、ハッと気がついた。


 ──もしかして、姉貴は俺が萌園アリスだと気がついてない?

 そうなってくると、姉貴の様子がおかしいのにも納得できる。


 だが、もし俺の考えが外れていれば姉貴の怒りを収める方法はない。


 もう目前にスタンガンが迫ってきている。


「姉貴っ!」


 一か八か、俺は姉貴の名を呼んだ。


「えっ……?」


 姉貴のスタンガンを押し付ける手が止まる。

 そして目を見開いて上体を起こした。


「その声にその呼び方……まさか」


 姉貴は俺が誰だか気がついたようだ。


「そうだよ姉貴、俺は理太郎だ」


 姉貴は目をパチパチと開けたり閉じたりする。


「…………え?」


 そして長い沈黙の後、目が点になった。


「え? 理太郎なの? アリスちゃんが?」

「そうだよ姉貴、俺は女装してたんだ」

「……」


 姉貴は眉を顰め、ペタペタと俺の顔を触る。


「……本当だ。化粧してるけど顔の形が一緒だわ」

「なんで俺の顔の形知ってんの?」

「え、ええええっ!? 理太郎が女装してる……っ!?」

「驚くの今!?」

「え? なに、なにが起こってんのこれ?」


 愛好が頭の上に疑問符を浮かべ、俺と姉貴を交互に見ている。


「……二人とも、取り敢えず話ができるところに行こう」


 色々と生じてしまった誤解を解くために、俺は姉貴と愛好へそう提案したのだった。

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