混沌と化す修羅場

(なんで!? なんで俺姉貴に襲われてるの!?)


 俺は困惑していた。

 馬乗りになってスタンガンを押し付けようとしてくる姉貴の腕を押さえて抵抗する。


「あんた、今まで騙してたのね……!」

「っ!?」

「よりもよって愛好も騙してたなんて許せないわ!」


 俺は姉貴の怒り狂った表情を見て理解した。

 姉貴に俺が女装していたことがバレたのだと。

 そして姉貴は自分だけでなく、愛好に対しても俺が男であることを黙っていたことに怒っているのだろう。


「ちょ、ちょっと!? 何やってんのよ!」


 その時、愛好がやってきた。

 ちょうどいい、この誤解を解いてもらおうと俺は愛好に助けを求める。


「あ、愛好。ちょうど良かった、助けて……」

「止めないで愛好! 私たちは騙されてたのよ!」

「だ、騙されてた……?」

「コイツ、私たちに黙って浮気してたのよ……!! 二股してたの!!」

「二股……!?」


 二股!? 俺は心の中で驚愕した。


(ちょっと待て、俺は二股なんて……あれ? そういえば……)


 俺は心の中であることを思い出した。

 それは昔の記憶。

 姉貴の言葉だ。


『あのね理太郎。私を差し置いて誰とも付き合っちゃだめよ? もし抜け駆けしたら浮気だってことで刺しにいくから』


 昔、姉貴はそんなことを言ってたような気がする。

 俺はハッと気がついた。


(まさか、俺が抜け駆けしたから怒ってるってこと!?)


 あの時は冗談かと思ったけど、まさか本気だったのか……!?

 とにかく、こうなった姉貴には手のつけようがない。

 俺は愛好に助けを求めた。

 しかし……。


「あ、愛好助けてくれ!」

「サイテー!」

「えぇ!?」


 愛好は俺を指差して罵倒してきた。


「ちょ、ちょっと待って! なんで罵倒されるの!?」

「黙りなさい! まさかあんたらがそんな関係だったなんて……!」


 愛好が両手で顔を覆った。


「オーケー、何か勘違いしてるんだな!」


 俺は愛好が何か壮大な勘違いをしていることを理解した。

 独力で姉貴を落ち着かせることに切り替える。


「よりにもよって私の大切な人を……! 絶対に許さないから!」

「理奈、そんなに私のことを……!」


 愛好が感極まったように涙目で口元に手を当てる。

 情報が大渋滞だ。


「ちょ、ちょっと待って。これは一応愛好も納得してて……」

「そんな……っ!?」


 俺はとりあえず愛好を騙していた、ということの誤解から解こうと試みる。

 しかし俺の言葉を聞いた瞬間、姉貴は驚愕したような表情になる。


「り、理太郎は!? 理太郎はどう思ってるのよ!?」


 え、俺? と理太郎は思った。

 まぁ、一応俺も納得してはいる、かな。

 うん、納得はしている。

 俺は姉貴の言葉を肯定した。


「え? 納得してるけど……」

「わあああああっ! 私の可愛い理太郎があああああ!」


 俺の言葉を聞いた瞬間姉貴が錯乱した。

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