姉、襲来。

 そして、萌園アリスと恋城らぶのオフコラボが終わった。


「は、波乱のオフコラボだった……」


 俺はぐったりと椅子の背もたれにもたれかかる。

 視聴者の勢いがいつもよりも増して凄かった。


 特にコメント欄が「キス」で埋まった時は本当に終わったかと思った。

 自分の配信で変態(視聴者)を捌いてた時の十倍くらい疲れた気がする……。


「楽しかったね、アリスちゃん」


 俺とは対照的に、愛好はとても楽しそうだった。


「そうだね……」


 俺がその言葉に頷く。


 その時だった。


 ピンポーン。

 インターホンが鳴った。


「あれ? ママかな。でも今日は仕事で遅くなるって言ってたんだけど……」


 愛好が急な来客に首を傾げる。


「宅配便とか?」

「今日は何もくる予定は無いって確認済み。配信する日だし」


 そりゃそうか。配信中にインターホンが押されたら困るし。

 恋城らぶとして活動してる愛好はかなりプロ意識が高いし、そういうところは気を遣っているはずだ。


 俺はいくつか思いつくものを挙げてみる。


「回覧板とか?」

「それは先週回ってきた」

「じゃあ、来客に心当たりは……」

「全然ないかも……」

「じゃあ……不審者?」

「……怖い」


 愛好は不安そうな表情でぎゅっとネコのぬいぐるみを抱きしめた。

 しまった、今のは不用意な発言だった。

 俺は場の雰囲気を変えるように明るく話しかける。


「私が代わりに出てこようか? もし不審者だったら私の方が力強いし」


 俺は愛好にそう提案する。

 不用意な発言をして愛好を怖がらせてしまった罪悪感もあるし。


「う、うん。じゃあお願い……」

「任せて、これでもちょっとの護身術くらいはできるから」


 俺は愛好の部屋を出て、玄関の方へと向かった。

 愛好は俺の後ろを制服の裾を掴んでついてくる。


 さて、来客に心当たりがないという事は、本当に不審者である可能性もある。

 念の為チェーンはかけておこう。

 俺は気を引き締めて玄関の扉に手をかけた。


 その時、なぜか嫌な予感がした。


 ──思えば、別の選択肢もあったのだ。

 このまま居留守を使うという選択肢もあった。


 しかし、いやいや、気のせいだろと頭を振って鍵を開ける。

 俺はこの選択を後に後悔することになる。


 ガチャ。

 扉を開ける。


「はい、どなたで……ヒェッ」


 思わず悲鳴を上げてしまった。

 なぜならそこにいたのは、不審者なんかよりもよっぽど怖い、なんなら不審者の方が良かったまである人物が立っていたからだ。


「あら、こんにちは。三河理奈です」


 なぜならそこに立っていたのは──姉貴だったからだ。


「どうして愛好の家にありすちゃんがいるのかしら?」


 小さく開いた扉の隙間から姉貴はニッコリと笑って俺に問いかけてきた。

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