始まる歪な関係


 それから俺と愛好の歪な関係が始まったわけだが、愛好の求めるレベルはかなり高かった。


 求められるのは完璧なロールプレイ。


 もし少しでも男である俺の部分を出そうものなら、「チッ……」と舌打ちされる。

 少しでも男らしい振る舞いがあればすぐに治されるし、一つ一つの仕草まで指摘されるので、俺の女装技術は着実に上がっている。

 今なら完璧な女性として振る舞える自信すらあるくらいだ。


 ……本当はこんな技術いらなかったけど。


 ただ厳しい分、ちゃんと萌園アリスでいれてる時は愛好はめちゃくちゃ優しい。

 男の時は地獄。アリスの時は天国だ。


 ギャップで風邪を引きそうだ。


 でも萌園アリスとして演じるだけなら視聴者の前でもずっと行ってきたことなので、別に大変ではない。

 これも配信の訓練だと思えば全然負担にもならない。


 加えて、俺が交換条件の一つとして俺がしっかり萌園アリスを演じれている限りは姉貴に俺の正体を黙ってくると約束してくれたので、それもありがたい。


 まさに社長の言っていた通りになったわけだ。

 夢も醒めなければ夢ではない。

 流石にここまで予想していたわけではないだろうが、社長の言葉を思い出した時にちょっと寒気がした。


 まあでも社長の言う通りだったことは確かだ。

 以前焼肉に行った時の助言の通りに、色々と落ち着いてきて冷めてきたタイミングで萌園アリスとして別れを切り出そう。


 そして今日の俺は、愛好の家に来ていた。


「ついにこの日がやってきたか……」


 今日は恋城らぶと萌園アリスのオフコラボの日。

 前回のオフコラボ以降、初めての俺のコラボ配信だ。


 俺の個人チャンネルでは何回か配信は重ねていたものの、視聴者からの恋城らぶとオフコラボをしてくれという願いがとても多く、そろそろ無視できなくなってきたの

で今回のオフコラボをすることになった。


「あれからくるのは初めてだな……」


 俺はそう意気込んでインターホンを押す。


「アリスちゃんいらっしゃい!」


 するといつもの通り笑顔の愛好が出迎えてくれた。

 玄関に入ると愛好が腕に抱きついてくる。


「今日のオフコラボ楽しみだね」

「そうだね」


 愛好はまるで俺が男であることを忘れているみたいにハートのオーラを出している。

 こんな感じで愛好は宣言通りに自己暗示でもかけてるのか、女装してる俺を完全に萌園アリスとして思い込んでいるみたいだ。


 最近は俺も完璧に萌園アリスを演じていれているらしく、最近は注意されることがない日もあるくらいだ。


 まあ、その注意がないせいで困っていることもあるんだけど……。


「もう配信の準備は出来てるから」

「うん、私も調整は終わってるよ」


 愛好の部屋には前回と同じくPCデスクの前に椅子が二つ用意されており、水が入ったペットボトルも二つ用意されていた。

 ソフトも配信開始手前に用意されているみたいだ。


「んんっ、よし。いつ始めても大丈夫だから」


 ヘッドホンをつけて声を調整した俺は愛好に合図を送る。


「分かった。じゃあ始めるね」


 愛好が配信を開始した。

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