お姉ちゃんの決意

【理奈視点】


 一方その頃。

 理奈は友人と一緒に昼食をとっていた。


「聞いて、最近理太郎の様子がおかしいの」

「そうなんですね」

「それに最近私に冷たいの……」

「理奈さん、かわいそうに……」


 神妙な面持ちで理奈の愚痴を聞いているのは、いかにも大和撫子な見た目の黒髪黒目の女子生徒。

 サラサラと艶のある黒髪と、おっとりとした雰囲気はまさしく清楚と言えるだろう。

 彼女の名前は更科百合。

 理奈のクラスメイトだ。

 そして、理奈と同じくVTuber事務所の「放課後ライブ」に所属しているライバーでもある。


「今日だってお昼ご飯に誘ったのに断られるし、絶対に何かあるわ……」


 理太郎が理奈の誘いを断ったのはこれでたった二回目なのだが、理奈はこの世の終わりのような顔で拳を握りしめる。

 百合はうんうんと頷いて頬に手を当てる。

 理奈が理太郎のことを溺愛しているのは周知の事実である。


「そうですねぇ……」

「それにね……これはここだけの話なんだけど」

「はい」

「昨日、夜に理太郎の部屋に入って弟の下着を確認したんだけど」

「ん……? ……そうなんですね」


 百合にとっては一瞬聞き逃せない事実が聞こえたが気がしたが、すぐに笑顔で頷いて何も聞かなかったことにした。

 わざわざ見えている落とし穴にはまりに行く必要もない。


「弟の下着が一枚消えてたの」

「まぁ」


 百合は目を見開いて口に手を当てる。

 どうして弟の下着の数を把握しているのだとか、聞きたいこともあるがもはやツッコむことはしない。


「これって悪い女に騙されてるわよね!?」

「そうでしょうか……」


 百合にはなぜ今ので悪い女に騙されていることになるのか分からなかった。


「いや、理太郎は絶対に悪い女に騙されてるのよ! 下着だって悪い女に剥ぎ取られたに違いないわ!」


 うわーん! と理奈は泣きながら机に突っ伏す。


「そうかもしれませんね」


 百合はもう理奈の話を流すことにした。

 理奈は昔から理太郎のことになると暴走する節がある。

 そういう時は落ち着くまで放っておくのが一番いいと理解しているのだ。


「あ、そうだ」


 百合は手を合わせる。

 そして理奈に対してとある提案をした。


「そんなに気になるんだったら、一度張り込みをしてみるのはいかがでしょう」

「張り込み……?」


 涙目の理奈が机から顔を上げた。


「はい。今度の休日、理太郎君の行動を丸一日見張ってみるのです。もし理太郎君が出かけたなら、その後を追えば理太郎君を騙している悪い女の人に会えるかもしれませんよ?」

「……それだわ!」


 理奈は立ち上がった。


「そうよ、理太郎から言ってくれるのを待ってる必要はないんだわ。私が直接退治してやればいいんだから」

「刃傷沙汰は勘弁してくださいね」

「大丈夫よ、ちゃんと一対一でけりをつけてやるわ」

「それが心配なんですけどね……ま、でも解決したみたいでよかったです。それでは私はそろそろいつもの『日課』に戻りますね」


 百合はそう言って素早く高級ワイヤレスイヤホンを取り出し、耳にはめた。


「あんたも好きよね、萌園アリスちゃんのASMR」


 百合が手に持っているスマホには萌園アリスのチャンネルが表示されていた。

 うふふ、と百合は頬に手を当てて笑う。


「これがないと私はもう生きていけませんので。では」


 百合はスマホをタップして、萌園アリスのASMRを流し始めると、机にうつ伏せで寝始めた。

 そんな百合をよそに、理奈はグッと拳を握りしめた。


「よし、やってやるわ……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る