おかしなツンデレさん

「はぁ、憂鬱だ……」


 翌朝、俺はため息をつきながら食パンを齧っていた。

 と言うのも、昨日の出来事があったせいだ。

 愛好に萌園アリスが俺だとカミングアウトしたものの、家から追い出されてそのあとは会話してない。

 だが、俺と愛好は同じクラス。

 学校に行けば必ず愛好と顔を合わせることになる。


「どうしたの理太郎。何か悩み事でもあるの?」


 俺の呟きを聞いて姉貴が心配そうに尋ねてきた。

 姉貴に心配をかけてしまったようだ。

 俺は反省しながら首を横に振る。


「あ、いや、なんでもないよ姉貴」

「そう? 本当になんにもないの?」

「うん」

「そう。それなら良いんだけど……。お姉ちゃん、相談してくれたらいつでも力になるからね。……砥石も買ったし」

「砥石……?」


 砥石と相談することになんの関係があるんだろう。

 俺が疑問符を浮かべていると、姉貴はちょっと冷気を感じさせる笑みを浮かべた。


「そうなの、色々と必要になるかもしれないでしょ? 切れ味のいい包丁が」

「絶対に要らないと思うけど?」


 どういう思考回路を経たらその結論に辿り着くんだろう。

 うん、なんだか良くわからないけど絶対に相談しないでおこう。

 姉貴に相談したら絶対におかしな方向に話が進んでいくに違いない。





 そうして、憂鬱になっている間に学校に来てしまった。

 ここまで来てしまったからには仕方がない。

 俺は意を決して教室の扉を開いた。


「三河、おはよー」

「おはよ」

「三河くん、おはよう」

「おはよう、委員長」


 挨拶してくれるクラスメイトに挨拶をして、俺は教室の中に愛好がいないかを見渡す。

 愛好は……見つけた。


「きのこ……パンツ……」


 愛好は椅子の背もたれにもたれかかりながら虚空を見つめ、不穏な単語をぶつぶつと呟いていた。

 どこからどう見ても心ここにあらずといった様子だ。

 俺は愛好に話しかけた。


「その……津出列さん」

「ん? どうしたの?」


 俺が声をかけた瞬間、愛好は我に返った。

 いや、返ってなかった。

 いつもなら用事で話しかけるだけでも「あん? 何話しかけてきてんのよあんた」と言いたげな顔で睨まれるのに、今の愛好は不気味なほど笑顔だった。

 しかも優しげな口調と態度で俺に接している。

 明らかに様子がおかしい。

 というか目が笑っていない。


「え、えっと、その……」


 俺がどう話したものかと思っていると、愛好は不思議そうに首を傾げる。


「用がないならもういい? 私、今大事な用事の最中だから」

「う、うん……ごめん」


 どう見ても虚空を見て呟いていただけでどう見ても大事な用事の最中ではなかったが、俺は情けなくも何も言えなかった。


「おかしい、昨日あんなことがあったのに……」


 そして俺が自分の席に戻るとメッセージが飛んできた。

 差出人は愛好からだ。

 俺は恐る恐るメッセージを開く。

 このメッセージがさらに俺を困惑させることになる。


『アリスちゃん。今日のお昼一緒に食べない?』


 飛んできたのは、そんなメッセージだった。

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