脳破壊と開かれる扉

「……っ!? ………………っ!!??」


 愛好は俺のスカートの中を強引に確認して驚愕し、声にならない悲鳴をあげた。

 そして我に帰って頭を振った。


「……違う! これはみみず! そう、みみずよ!」

「み、みみずじゃないわ!!」


 流石に聞き捨てならなかったので俺は反論せざるを得なかった。


「だって……だって私の知ってるのと全然大きさが違うもん!!」

「それはちゃんとしたのを見たことないからでしょ!!」

「じゃあ今見る! 実物を見てやる!!」

「おいやめろ! パンツに手をかけるな!! くっ……離せ!!」

「あは、あははははは!」


 もうヤケクソになったのか、愛好は狂ったように笑い声を上げて俺のパンツに手をかけてくる。

 パンツは俺の最終防衛ライン。もちろん防ごうとした。

 しかし愛好は例の如く女子とは思えない怪力で俺のパンツを引っ張る。

 限界を迎えたのは、俺の腕でもなく、もちろん愛好の腕でもなく──パンツの方だった。

 ブチ。

 そんな音がしてパンツが引き裂かれる。

 最後の城壁が破られ、全てが露わになる。


「えっ」


 そして、愛好は正真正銘目撃した。

 俺の『男の子』を。

 俺は急いで隠したが、バッチリと見てしまった愛好は固まっていた。

 しばらくポカーン、と放心したように虚空を見つめていた。

 そしてハッと我に返ると、ワナワナと震え始めた。


「あ、あ……」


 ぺたん、と愛好は力が抜けたようにベッドの上に座る。


「私のアリスちゃんが……ずっと女の子だって思ってたのに……」


 女性だと思っていた萌園アリスが実は男だったと知ったことが衝撃だったのか、今の愛好は色んな感情がごちゃ混ぜになったような表情になっていた。

 愛好の目から涙がこぼれ落ちてきた。


「あ、あはは……何これ、胸がぐるぐるする」

「あ、愛好……」


 俺は何か声をかけようとした。


「やめてっ!!」


 すると愛好はそう叫んだ後、俺の傍に落ちていたウィッグを無理やり俺の頭に乗せてきた。


「ちょ、愛好……?」

「アリスちゃんの声で話して」

「はい?」

「お願い、アリスちゃんの格好で男の声を出されたら私……おかしくなりそうなの」


 愛好は切羽詰まったような表情で俺に詰め寄る。


「変な扉開きそうなの!! だからアリスちゃんの声で喋って!!」

「う、うん分かった。けど……」


 愛好の気迫に圧されて、俺はアリスの声へと変声する。

 すると愛好はホッと安堵の息を吐く。


「うん、うん……これでもう大丈夫。……あれ?」


 しかし愛好は首を傾げる。


「……嘘、なんで」


 焦ったような声を出す愛好。


「愛好、どうかした……」

「きょ、今日はもう帰って!!」


 俺が心配になって声をかけようとしたら、愛好はいきなりそう言ってきた。


「え? いやまだ話さないといけないことが……」

「ダメ! 今日は帰って!!」


 愛好は俺の背中を押して部屋から出す。

 そしてマンションの外へと放り出された。

 バシン! と勢いよく閉められる扉。

 部屋の前で立たされる俺。


「……あの、俺今すごく危ない状況なんですけど」


 俺はスカートを押さえながら扉に向かって話しかけたが、返事が返ってくることはなかった。

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