シュレディンガーの男の子


「……へ?」


 パチパチと目を瞬かせる愛好。


「………………???」


 そして「なに言ってるのか分からない」という顔で首を傾げた。

 俺の話が突飛すぎて理解ができなかったのだろう。

 まあ、それも当然だ。

 今まで女性だと思って接してきて、尚且つ彼女だと思っていた人間が実は男性だったと言われたら誰だってそうなる。

 まずは落ち着いて話していこう。


「もう一度言うけど、実は俺は女の子じゃないんだ」

「……ええと?」

「俺は男で、鈴木アリスっていうのもただの偽名なんだ」

「あ、あはは……。なに言ってるのアリスちゃん、今日はエイプリルフールじゃないよ?」


 愛好は乾いた声で笑って、「えーと今日は……」とカレンダーを確認し始めた。

 カレンダーを確認しなくてもエイプリルフールじゃないと理解しているのに。

 完全に困惑しているみたいだ。

 俺は愛好の肩を掴んで話しかける。


「落ち着いて聞いてくれ愛好。俺は本当に男なんだ」

「いやいやいやいや」


 愛好は頭を横に振って俺を押し戻した。

 今まで愛好と関わってきた中で初めての拒絶だ。


「本当なんだって。俺は男なんだ」

「うんうん、分かった。アリスちゃんは男の子なんだよね」


 まるで母親が聞き分けのない子供の言葉を聞き流すように声色で愛好は頷く。


「で、嘘だよね?」


 そして最後はやっぱり嘘だということに着地した。


「いや、嘘じゃない」

「うそうそうそうそ!!! 私は信じないから!」

「だから本当だって! 俺は男なんだよ!」

「嘘だ! だってこんなに可愛い子が男の子なわけ無いもん!」

「くっ……」


 これはもう決定的な証拠を見せないと信じてもらえなそうだ。

 そう判断した俺は……ウィッグを取った。


「えっ、はっ、ちょっ」


 愛好は金髪のウィッグを取り去り黒髪となった俺を見て困惑の声を上げる。

 そして俺の手元の金髪のウィッグと、なにも乗ってない俺の頭を見て呆然とした声を上げた。


「ウィッグ……?」

「ああ、そうだ。今までずっとカツラを被ってたんだ」

「そんな、まさか……その顔」

「ああ、俺は実は三河理太郎なんだ」


 ついに俺は自分の正体を明かす。


「うそ……」


 愛好はわなわなと震えていた。

 申し訳なさを覚えつつも、やっと信じてくれたか、と安堵していたところで。

 愛好は急にハッと何かを思い付いたかのような表情になった。


「──そうだ、シュレディンガーの男の子」


 愛好はそう呟いて立ち上がる。


「……は?」

「まだ確かめてない」

「急になにを言って……」

「私はまだアリスちゃんの『男の子』をこの目で確かめたわけじゃない。ということはまだアリスちゃんは女の子の可能性が……ある!!」

「いや無いけど!?」

「アリスちゃん。ちょっとスカートの中見せてくれるかな!? 一瞬でいいの!!」

「ちょ、落ち着いて……!」


 なんだか危ない笑みを浮かべた愛好が襲いかかってきた。

 愛好は俺の両手を掴み強引にベッドへと押し倒す。


「あ、愛好!?」

「大人しくしててね、すぐに終わるから……」


 そしてゴクリと唾を飲み込み、愛好はスカーをたくし上げ……。


「へ?」


 そこにある俺の『男の子』を確認した。

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