カミングアウト

「ふーっ……」


 俺は息を吐き出した。

 インターホンを押す。

 するとすぐに愛好が出てきた。


「いらっしゃい、アリスちゃん!」

 先日と同じように笑顔で出迎えてくれる愛好。

「今日はありがとう。急に呼び出したのに来てくれて」

「ううん、私も暇だったし」


 今日呼び出したのは、実は愛好の方だった。

 俺はちょうど良かったので、社長の言うとおりここで話すことにしたのだ。

 そして、俺は今日決心してきた。

 俺が自分が男であると話そうと。

 社長は夢も醒めなければ現実だ、と言ってたけどやっぱり俺にはこれ以上愛好を騙すことなんて出来ない。

 どんなに罵声を浴びせられたって構わない。

 正直に話して、誠心誠意謝ろう。


 愛好の家に上がると、部屋へと通された。

 先日と同じようにジュースを持ってきてくれたけど、緊張で喉を通らなかった。

 俺たちはローテブルに隣り合って座る。

 愛好が話を切り出した。


「それで、今日はね……」

「ちょっと待って愛好」


 俺は愛好の言葉を遮る。

 愛好はきょとんとした顔で首を傾げた。


「どうしたの……?」

「聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと?」

「愛好って、女の子が好きなんだよね?」

「うん、そうだよ? あ、そう言えば言ってなかったよね。実は私男の子の方が好きなんだ」

「……え?」


 とんでも情報が出てきて俺は困惑する。

 俺の表情を見て、愛好が焦ったような顔で言葉を重ねてきた。


「あ、でもアリスちゃんはデビューした時から見てて、一目見た時から好きになったって言うか、アリスちゃんだけは性別を超えて「好き」って思ったの。それからどんどん女の子が好きになっていったの。これっておかしいかな……?」

「え、ええと……」


 俺は愛好から目を逸らす。

 ちょっと色々情報が出てきて頭の整理が追いつかない。

 愛好は実は男性が好きで、でも俺は一目惚れして……。

 ……もしかして俺が愛好の性癖を開発した?

 しかし愛好は俺の困惑を拒絶していると感じ取ったのか、距離を詰めてくる。


「嘘じゃないんだよ!? 本当にアリスちゃんのことは好きなの!」

「あ、あのね愛好? 実は私……」

「どうすれば信じてくれる!?」

「ちょっと待って! 一旦落ち着いて……」

「私、アリスちゃんに嫌われたら……」


 愛好の顔が至近距離にある。

 焦っているのか、愛好は俺の声が届いていなかった。

 だから俺は肩を掴んで、無理やり言葉を遮った。


「実は私……いや、俺は男なんだ!」


 俺は萌園アリスとしての声を崩し、叫ぶ。


「……へ?」

 愛好が素っ頓狂な声を上げた。

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