詫び土下座と焼肉
あのあと、配信はなんとか終わった。というか、終わらせた。
無理やりまとめて配信を終了したのだ。
うねる嵐のようなコメント欄を俺は忘れないだろう。
「楽しかったね、アリスちゃん」
「そ、そうだね……」
俺はげっそりしているのに、愛好は逆に元気そうだった。
肌がてかてかしてるくらいだ。
腕に抱きついた愛好が、上目遣いで俺に尋ねてくる。
「それでね、配信も終わったけどこのあとはどうする? 今日は両親いないんだ」
「そうなんだ……」
「あのね、今日は両親いないの」
愛好が強調して俺にそう言ってくる。
……だから、俺はその情報をどう答えればいいんですかね。
「……今日はお泊まりして行かない?」
愛好は痺れを切らしたように、もじもじと照れながらそう切り出してきた。
世のカップルなら彼女がこんなことをすれば男はイチコロだろうが、今の俺は鈴木ありす(偽名)。引っかかったりしないのだ。
「えーっと……今日は私、帰ろうかな」
「な、なんで!?」
「えっと……とにかく帰るね、じゃ!」
俺は急いで荷物をまとめて部屋から出ていく。
「えっ、あっ……もうっ!!」
その時、愛好が「こうなったら……」と呟きながら、不満顔でこちらを見ていたことには気が付かなかった。
***
翌日、俺は事務所にやってきていた。
ウィッグを被って女装で。
これは社長の指示だ。
逆らいたくても逆らえなかった。
だって…………下手に反抗するとちょん切られるかもしれないから。
「……さて、どうやって許しを乞おうか」
俺は顔を真っ青にしながらそう呟いた。
どうすれば許してもらえるだろうか。やっぱり土下座が一番だろうか。
うん、それがいいな。まずは土下座。それから誠心誠意謝る。これで行こう。
「……よし」
俺は意を決してビルの中に入り、エレベーターに乗り込む。
これで事務所に来るのは四回目だ。
だが、これまでで一番緊張していると言っても過言でない。
事務所の中に入り、社長室の扉をノックする。
「……萌園アリスです」
「入ってくれ」
社長室の中に入る。
「……申し訳ありませんでした!!」
社長室に入るや否や、俺は社長に向かって土下座した。
しかし俺の予想とは裏腹に、社長は至極不思議そうな声を上げた。
「ん? 何をしているのかな」
「え? だって俺……」
「あ、いやそうか……ふむ。ちょっと勘違いしているみたいだな」
社長は顎に手を当てて状況を理解したように頷いた。
「今日アリス君を呼び出したのは確かに昨日の件だが、別に叱責しようとかそういうわけではない」
「えっ、切られるんじゃないんですか?」
「まあ、確かに事務所の女子に手を出したら切ると言ったけどね。今回は特例だ」
「特例?」
「事情は大体把握している。大方愛好が暴走したんだろう?」
「っ! そうです!」
「まあそこらへんも含めてしっかり話そう。アリス君、お腹は空いているかな?」
「え、はい……」
今は夕方時なので健全な男子高校生として腹は空いている。
……男子高校生なのに女子制服を着てるけど。
「よし、では焼肉を食べに行こう」
社長は肩に上着をかけネクタイを緩めると、そう言ったのだった。
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