予期せぬ百合配信

 :え

 :えっ

 :え

 :え

 :え

 :えっ

 :はい

 :え

 :うそ

 :えっ


「ちょ、ちょっと待って、あい……らぶちゃんっ!?」

「もうこの際だから言っちゃおうよ。実は私達、付き合ってるんだよね」


 愛好がそう言うと、一瞬コメント欄が止まって、


 :うおおおおおお

 :百合だあああああああ

 :きたあああああああ

 :うおおおおお

 :付き合ってる!?

 :ま!?

 :まじかああああああ


 コメント欄が加速した。

 怒濤の勢いでコメントが流れていく。


「私の方から猛アタックして付き合ってもらったの!」

「らぶちゃん!? 急に何言ってるの!?」

「だって、皆に知ってもらいたくて」

「そんな、バラしたら……あっ」


 俺はそこまで言って口を塞ぐ。


 :あ、認めた

 :あ

 :あ

 :あっ

 :えー、これ公認です。


 口を滑らせた……!

 隣を見ると、愛好がとても嬉しそうにニコォ、と笑顔になっていた。

 俺は必死に視聴者に向かって言い訳する。


「えっと、これは違うんだよね皆」

「でも、私達が付き合ってるのは事実だよね?」

「いや、それは……そうだけど!」


 でもバラして良いものと悪いものがあるんですよ。

 ちらりと横目にモニターを確認する。

 既に同時視聴者数は五万人を突破し、まだまだ増え続けている。

 この分ではSNSでも呟かれまくって、またトレンド一位になっているだろう。

 この短期間で何回トレンド入りするんだよ。

 ほとんど俺の望みと違う理由でトレンド入りしてるんだけど。


「付き合ってるから皆に報告しても問題ないもーん」


 そう言って愛好は俺の腕に抱きついてきた。


「ちょ、らぶちゃん胸が当たってるって……」

「当ててるんですぅー」


 :あぁ〜^^

 :ニマニマが止まらない

 :二人の部屋の壁になりたい

 :絨毯になって踏まれたい……


 また度し難い変態が……!

 思わずツッコミたくなったが、今優先するのは目の前のこの暴走機関車だ。


「あ、あのねらぶちゃん。他の話、しない?」

「アリスちゃん、大好き」


 ダメだ、話が通じない。

 俺の目の錯覚かもしれないが、愛好の瞳にハートが浮かんでいる気がする。


「あっ、アリスちゃんちゃんのお顔見てたらキスしたくなってきた。……しよっか?」

「いや、しよっか、じゃなくて。……え、ちょっと?」


 愛好は俺の頬に手を添えて、右手首を掴んだ。

 に、逃げられない……!?


「ら、らぶちゃん? 一旦落ちついてむぐっ……!?」


 唇に柔らかい感触。

 鼻孔をくすぐる愛好のイチゴみたいな匂い。

 脳が溶けていくみたいな感覚。


 :急に無言になった

 :もしかしてチューした?

 :これキスしてね?

 :ガチやんけ

 :あ、同接十万人突破してる。


「っぷは」


 愛好が幸せそうな顔で俺から離れる。


「なっ、な……」


 前回と同じく頭が真っ白になった俺は、そんなことしか言えなかった。


 その時、スカートのポケットの中で、スポーツの試合で終了告げるブザーのように、スマホが振動した。

 恐る恐るスマホを取り出して見ると。


『理太郎君。明日、事務所に来るように』


 社長からのメールには、簡潔にそう書かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る