暴露する恋城らぶ

 なんだ、俺変なこと言ったか?

 隣を見てみれば、愛好が頬を膨らませていた。


「え? なんでほっぺた膨らませて怒ってるの……?」

「なんで苗字なの」

「いや、それは……」

「私のことは名前で呼んで」


 ずいっ、と愛好が顔を近づけてくる。


「その……」

「名前で呼んで」


 さらに愛好が顔を近づけてくる。


「ら、らぶちゃん……?」

「……えへっ」


 俺が名前で呼ぶと愛好はにぱっ、と笑顔になった。


 :なんだこのイチャイチャ

 :尊すぎる……

 :これは新たなカップル成立です


 勝手にカップルにするな、とツッコみたかった。

 でもカップルなので何も言えなかった。


「アリスちゃんすきー!」

「わっ、あ……らぶちゃん!? なんで抱きついてくるの!?」


 思わず愛好の名前を呼びそうになって、慌ててVTuberとしての名前を呼ぶ。

 愛好は俺の胸に顔を埋めて、頬ずりをする。


「アリスちゃん、いい匂いする……」

「うちの視聴者みたいなこと言わないで」


 :尊い

 :百合だあああああ!!

 :尊い

 :尊い

 :うちの視聴者みたいなことwww

 :ナチュラルに変態扱いされる視聴者草

 :私もその匂い嗅ぎたい

 :尊い

 :尊い

 :尊い

 :やっぱりいい匂いするんだ……


 ああ、やっぱり案の定コメント欄の変態達が準備運動し始めた……。


「アリスちゃんもハグしてきてもいいんだよ?」

「いや、それはちょっと……」


 愛好から抱きつかれるのはまだいいが、俺が自分で抱きついていったら、ただの犯罪だ。

 ……それに社長に切られる。大事なところを。

 しかし、愛好は頬を膨らませてむっと睨んできた。


「なんで?」

「なんでって……」


 正直な理由は言えないし、かといってなんでと言われても……。


「アリスちゃんは私のことが嫌い?」

「へっ」

「嫌い!?」

「嫌いじゃないけど……」


 愛好の勢いに押されて、俺はそう答えた。

 嘘ではない。


「そうだよね、私のこと大好きだよねっ」


 より強く抱きついてくる愛好。

 わざとぼかしたのに、全く違う言葉に魔改造された。

 愛好に誤魔化しは通じないようだ。

 だってどれだけおかしなことを言っても強引に軌道修正されるから。


 :ニヤけてきちゃった

 :ガチじゃん

 :らぶちゃん本気だなこれ

 :俺達は何を見せられているんだ……

 :尊すぎて天に昇りそう

 :口のニヤケがおさまらん

 :口角が下がらない


 どうやら画面越しにも愛好の本気具合が伝わっているらしい。

 ちらほら百合に歓喜してる奴もいる。

 片方が女装した男だと分かったらとんでもなく落胆するのではなかろうか。


 その時、俺はコメント欄に気を取られていた。

 だから愛好がとんでもないことを言おうとしていることに気が付かなかった。


「アリスちゃんと私、相思相愛だもんね。──だって付き合ってるし」

「…………えっ」

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