最推しとオフコラボしてしまった。

 え、嘘、「放課後ライブ」最推しなんですけど……。

 俺は頭の中で頭を抱えていた。


「みんなー、今日は告知してた通り、オフコラボだよー? 実はもう私の隣に座ってます! どうだ、羨ましいかー!」


 愛好はニッコリと笑顔で視聴者に語りかけている。

 恋城らぶ。

 VTuberとして非常にプロ意識が高く、アイドルとして視聴者の理想であり続け、笑顔を届けてくれるその姿はまさにエンターテイナー。

 言葉の端々から愛好がプロ意識が高いことは分かっていたが、まさか恋城らぶだったとは。


「というわけで、今日はなんと! 特別ゲスト! 萌園アリスちゃんをお呼びしてまーす!! ……アリスちゃん」


 俺の思考とはよそに、愛好から振りがやってきた。

 隣の愛好が思考が飛んでいた俺を肘で小突き、小さく囁いてくる。


「えっ、あっ……萌園アリスです。よろしくお願いします!!」


 俺は慌てて視聴者に向かって挨拶をする。


 :うおおおおおお!!!

 :オフコラボだー!!

 :いいなぁ

 :絶対いい匂いするクンカクンカ

 :アリスちゃーん!!


 俺は深呼吸をして気持ちを切り替える。

 今は配信に集中だ。

 ……いや、ちょっと待て、絶対俺のチャンネルから来てる変態がいた今。

 まぁとにかく、コメント欄の雰囲気は上々だ。


「アリスちゃんは放課後ライブに所属して初めてのオフコラボなんだよね?」

「う、うん、というかコラボ自体あんまりかも……」


 愛好が話題を振ってくれているが、俺の返事はちょっとしどろもどろだ。


(……どうしよう、やっぱりめちゃくちゃ緊張する)


 スイッチを切り替えたのに、まだ緊張していた。

 だってしょうがなくないか。最推しだったんだぞ。

 まさか恋城らぶとオフコラボすることになるとは……。

 いや待て、てか……。

 頭の中で今までのことを思い出していた。

 ……俺、推しとあんなことやってたのか。自己嫌悪で死にそう。


 :確かにコラボはじめてか

 :初コラボでオフコラボwww

 :コラボ初めてまじか


 確かに、よくよく考えてみれば初コラボなのにオフコラボなのか。

 ……攻め過ぎでは?


「でね、アリスちゃんが事務所に来る時に初めて出会ったんだけど、もうすぐ仲良くなったんだよね! ね、アリスちゃん?」

「そうだね……」


 俺の正しい記憶では仲良くなったというか、とんでもない勢いで距離を詰められたというか……。

 でも取り敢えず肯定しておく。なんか愛好の「ね?」から圧を感じるから。


「今日も二人でオフコラボしようねって決めたんだよね、ね?」

「う、うん……」


 :草

 :なんか圧かけられてねw?

 :「ね?」の圧が強すぎるww

 :こんな圧かけてるらぶちゃん初めてみたぞ

 :なんだか百合の波動を感じますねぇ


「私達たち、好き同士だもんね? だって、最近渋谷でデートしたし。恋人繋ぎで回っわたもんね?」

「ぴゃっ!?」


 デートのことバラすの!?

 まずい、こんなの視聴者が聞いたら……。

 ただでさえ変なこと言ってる奴がいるのに。


 :デート!?

 :デート!?

 :えまって

 :デート!?

 :デート!?

 :デート!?

 :百合だああああああ!!

 :尊い……

 :なんだ今の声


 ああ……、案の定コメント欄が興奮してる。


「アリスちゃん、カッコ良かったよ。私達ナンパされたんだけど、アリスちゃんが守ってくれたんだよね……」


 愛好はあの時のことを思い出したようにうっとりとした表情になる。


「それに、私の荷物もさり気なく持ってくれて、なんかエスコートされてるみたいだった」


 :すご

 :俺ならベタぼれしてる

 :かっけぇ……

 :それは王子様じゃん


 愛好は視聴者の肯定に興奮して次々にまくし立てる。


「あの時のアリスちゃん、本当に王子様みたいで格好が良かったんだから! あんなのされたら好きになっちゃうよ……」

「あはは、恋城さん。恥ずかしいよ……」


 :あ

 :あ

 :あ……

 :あっ

 :あ

 :あっ

 :あ


 俺が愛好の名前を呼んだ途端、コメント欄がそれ一色で染まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る