お姉ちゃんとデートさせられた
「お姉ちゃんと一緒にデートしない?」
「えぇ……」
愛好とのデートから帰ってくるや否や、姉貴にそう言われた。
たった今渋谷でのデートという大仕事を終えて帰ってきた俺は、ちょっとうんざりした色が声に混ざってしまった。
それがいけなかった。
姉貴が不満そうに頬を膨らませる。
「なによ。お姉ちゃんとデートするのはそんなに嫌なの。せっかくデートすらまともにしたことない理太郎に、恋人気分を味わわせてあげようと思ったのに」
いやいや、姉とはデートしても恋人気分は味わえないでしょう。
それに、デートすらまともにしたことないなんて、なんて不名誉な言葉だ。
今日、ちゃんとデートはしてきた。……女装してた上に相手は俺のことを女性だと思ってたけど。
「いや、恋人気分って……。それに俺だってデートくらい……」
「理太郎?」
そう言いかけたところで姉貴に頬を両手でパァン! と挟まれた。
強制的に姉貴と目を合わせられる。
「まさか、女の子とデートしたことあるのかしら? お姉ちゃんを差し置いて?」
怖い。すっごく怖い。
何故かは分からないが、姉貴の目から光が消えている。
その時、姉が鼻を鳴らした。
「……スンスン。なんかあんたから女の子の匂いがするんだけど」
っ!? しまった、着替えたのにまだ愛好の匂いが残ってた!
「今日は友達と遊ぶんじゃなかったの?」
不味い。姉貴の瞳から光がいっそう消えた。
今日は姉貴には友達と遊ぶと言っているのだ。
もし嘘をついたことがバレたら……。
「え、えっと……帰ってくるとき、電車で隣に女の人が座ってたからそれじゃないかな……」
「ふぅん」
姉貴がじっと目を見つめてくる。
とりあえず、姉貴にデートしたって言うのはヤバい気がする。
理由は分からないけど、俺の勘がそう告げている。
「……て、ていうか、デートなら姉貴といっぱいしてるじゃん。週末は毎回連れ出して出かけてるんだし」
「そう? ……確かにそうかも」
「そうそう。そうだって」
「そうね、なら良いわ」
姉貴は斜め上を見て思考すると、頷いて俺から離れた。
どうやら姉貴の気を逸らせたようなので、ホッと安心して……。
「今回はうまいこと言ったから気を逸らされてあげる」
「!?」
やっぱり俺の浅知恵なんて姉貴には通じないんだと痛感した。
「うんうん、お姉ちゃんとのデートはやっぱり楽しいよね?」
「はい、楽しいです」
「棒読みね、失格。罰としてこの荷物を持たせてあげる」
「わー、嬉しいなー……」
翌日、俺は姉貴と出かけていた。
姉いわくデートだそうだが、俺からしたらただ姉と出かけてるだけだ。
姉と出かけたというと、学校の友人からは羨ましがられるが、どこがそんなに良いのか分からない。
「じゃあ、次はちょっと休憩しましょう。スタパに行くわよ」
姉貴のその一言で、俺はスタパへと連れて行かれた。
注文カウンターまでやって来ると、姉貴がふふん、と自慢気に胸を張った。
「理太郎、あんたどうせスタパでまともに注文したことないでしょ?」
「あ、チャイラテのトールでお願いします」
昨日の愛好とスタパに来て注文の仕方は分かっていたので、俺は店員にそう伝えた。
「だから私が教えて……」
「え、なに姉貴」
「……なんか、最近あんたから女の影を感じるんだけど」
今のでバレた!? なんで!?
「そ、そんなことはないんじゃない……?」
「ううん、だってオシャレだからって理由でスタパを避けてたあんたが、こんなにスムーズに注文できる訳ないもの。絶対におかしい。あ、私はキャラメルフラペチーノでお願いします」
「いやぁ……実は昨日ちょうどスタパに入って、苦手を克服したんだよね」
「へー……」
姉貴がジト目で睨んでくる。
まだ疑っていたようだが、これ以上は追及してこなかった。
一応納得してくれたのだろうか。
それぞれカフェオレとキャラメルフラペチーノを受け取った俺達は、席へと座る。
甘い物が大好きな姉貴は、笑顔でフラペチーノを飲んでいた。
この状況、愛好のときとなんか似てるなー、と考えながら飲んでいると。
「ねぇ、ちょっとカフェオレちょうだいよ」
「え、ああうん」
俺は姉貴に言われた通りにカフェオレを差し出す。
「うん、美味しい。さ、これでもう一回フラペチーノを美味しく飲めるわね。あ、あんたにもフラペチーノあげる」
姉貴がプラスチックのカップを差し出してくる。
俺も甘い物は好きなので受け取って一口飲んだ。
「うま」
「でしょ」
「俺も次からこれ頼もうかな」
「季節のフラペチーノがオススメよ」
明らかにカロリーの暴力、みたいな味だけどちゃんと美味い。
女子がスタパの新作をこぞって買いにいくのも納得だ。
「あ、そう言えば」
「なに?」
「あんた、ソロで配信してみない?」
「えっ?」
「私抜きで配信してみてほしい、って私のファンからも声があがってるのよ、ほら」
姉貴は俺の隣に座ると、スマホを見せてくる。
SNSで『姉小路らん 弟』と検索されたそこには、たくさんの視聴者の声が乗っていた。
「いや、でも俺が配信して需要あるかなぁ」
「あるわよ、皆理太郎に会いたがってるし。私がサポートするから一回やってみない?」
「まぁ、そこまで言うなら……」
「よしっ、じゃあ早速今晩配信しましょ。もう告知しとくわね」
俺が了承するとすぐに姉貴は早速スマホをポチポチと打って、SNSで告知を始めた。
「さ、そろそろ帰りましょうか。配信の準備もあるし」
そう言って姉貴は立ち上がった。
なんかよく分からん内に配信することになった。
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