お姉ちゃんの秘密
「ここからは弟に関する質問を聞いていくわよ。みんな、この際だからなんでも質問して行きなさい」
:何でも了解
:姉御から許可が出たぞ!
:なんでもマ?
:許可ありがてぇ
「いや、そん何でも質問して行きなさいって言われても、答えるのは俺なんですけど……」
「細かいことはいいのよ。ほら、質問来たわよ。『どうやって女声を出してるんですか』ですって」
コメント欄を読む限り、この質問が一番多いみたいだった。
「どうって、普通に出してるだけだけど……。こう、高めの声出して、自然な女性の声になるように調整する感じで……」
地声から女声になる過程を段階を踏んで話してみる。
:うん、全く参考にならん
:感覚派か弟氏
:天才ってことだけわかった。
「えー? 分かんないかなぁ。結構わかりやすいと思うんだけど……」
「まあ、一旦女声の出し方は置いときましょう。今度動画でも出せばいいわ。次の質問は、そうね……あ、これがいいんじゃないかしら」
姉貴はいい質問コメントを見つけたのか、上機嫌になった。
そんなにいい質問なのか?
「『スリーサイズを教えて』だって」
「知るかそんなもん! なんだそのゴリゴリのセクハラ質問は!?」
思わずツッコんでいた。
姉貴は不満そうに唇を尖らせる。
「えー、教えてあげなさいよ」
「いや、スリーサイズなんて知るわけないでしょ!」
「何で自分のスリーサイズも知らないのよ」
「男だからに決まってるだろ!」
「ま、知らないならしょうがないわね」
俺は姉貴が質問を流してくれてホッと安堵の息を吐く。
まさか男なのにセクハラされるとは思っても見なかった。アリスの時は慣れてるけど。
「じゃあお姉ちゃんが教えてあげましょう。上から76、53、71よ」
「……え?」
:うおおおおお!
:貴重な情報あざす!!
:詳細な数字で解像度上がる感謝
:なんで姉御は知ってるの……?
:当然のように知ってる姉御w
「あ、姉貴? なんで俺のスリーサイズ知ってるの……?」
「もちろん測ったからよ」
「いつ!?」
「あんたの女装用の服を作った時よ」
「ちょっ!?」
急に何言ってんだ!? と思ったがもう遅い。
:女装!?
:!!!?????
:女装!?
:今女装って言った!!
:最高だあああああああああ!!!!!
コメント欄がとんでもない状態になっていた。
「姉貴! 誤解を与えるようなこと言うなって!」
「そう? でも女装はしてるじゃない」
「いや、姉貴が無理やりやらせたんだろ! 俺は別に望んで女子制服を着たわけじゃないんですけど!」
俺は必死に否定るす。
姉貴の言い方だとまるで俺が望んで女装してるみたいになってしまう。
しかし、俺はそこで俺はアリスとして配信する時に女装していることと、会社に行く時女装した上愛好に女子と勘違いされたままだったことを思い出した。
……いや、女装自分からやってるけど!! 確かに誤解とは言い難いけど!
「弟、自白してるけど、いいのそれ?」
「え? あっ……」
俺はそこで自分が何を口走ってしまったのかを理解した。
:弟きゅんの女子制服姿!?
:さらに詳細な情報ありがとうございます!
:創作意欲がやばい……!
:自白感謝
:無理やり女装させられるのもまた一興……
:というか無理やりなのが良い……
しまった……! 変態たちに情報を与えてしまった……!
図らずも配信に集まる変態に情報を与えてしまったことに俺は頭を抱える。
対照的に姉貴は上機嫌だった。
「ふふ、弟の可愛らしい姿を世界に伝えるのはやっぱり姉の義務よね」
「今すぐ捨ててくれその義務……」
「まあ、これ以上いじめるのも可哀想だから、ここら辺で質問コーナーは閉じておきましょう」
姉貴がついにこの地獄の質問コーナーを閉じてくれたので、俺はほっと安堵の息を吐く。
そして配信が終わると。
「すごいわね……とんでもないくらい反響があるわ」
「反響の割に俺は色々失ったけどね……」
姉貴はリビングのソファの上でSNSを興奮気味に眺めており、俺はテーブルの椅子の背もたれにぐったりと体重を預けていた。
配信が終わった今もトレンドは一位。
加えて『女装』や『スリーサイズ』という言葉もトレンドにランクインしている。
なんならタイムラインには二次創作で描かれた、俺の女装姿のイラストが大量に溢れかえっていた。
ああ、俺の「放課後ライブ」専用の素敵なタイムラインが汚されていく……。
「もー、そんなに拗ねないでよ。謝ってるでしょ?」
姉貴が後ろから首に両腕を回して抱きついてきた。
首元に柔らかい何かが押し付けられるけど、家族なので全く興奮しない。
「配信頑張ったご褒美に、お姉ちゃんがアイス奢ってあげるから、ね?」
「いや、それ姉貴が食べたいだけでしょ?」
「あ、バレた?」
姉貴が楽しそうにくすくすと笑う。
「ていうか姉貴、髪の毛がくすぐったいんだけど。離れてくれない?」
「……お姉ちゃんがハグしてあげてるのに、他に感想はないの」
「ない」
「……そう」
姉貴は「……まだ脈なしか」と呟いて俺から離れた。何の話?
「でも、夜に一人でコンビニに行くのは怖いから、ついて来てくれるわよね。アイスは本当に奢ってあげるから」
「まぁ、それなら良いけど……」
「よし決まりね。じゃ、行きましょう?」
「はいはい」
俺は椅子から立ち上がり、姉貴の後について行ったのだった。
【理奈視点】
深夜、自分の部屋にいる私は上機嫌だった。
なぜなら、最近弟である理太郎を自身のチャンネルに、準レギュラーとして出すことができるようになったからだ。
理太郎はその後放課後ライブの他のメンバーの配信には出ない、と決めたそうだが、逆に私にとっては好都合だった。
だって、それはつまり理太郎を私が独占できるということなのだから。
(これはもうほとんどカップルチャンネルって言っても過言じゃないんじゃない……!?)
きゃー! と一人で悶えながらスマホでSNSを開く。
タイムラインには大量に姉小路らんの弟のファンアートが流れて来ている。
「一回だけ女装してもらった後は一度もしてくれなくなったから残念だったけど、みんながファンアートを描いてくれたら見れるじゃない。私、天才かも……」
自分の好きなもので世界が溢れている。
こんなに素敵なことはないだろう。
この調子でどんどん外堀を埋めていこう。
「あ、もうこんな時間だわ」
私は自分の部屋を出て、隣の理太郎の部屋の扉の前に立った。
「理太郎?」
コンコン、とノックをするが返事は返ってこない。
扉を開けて部屋の中に入ると、予想通り理太郎はベッドの上で寝ていた。
私は静かにベッドの側へと歩いていく。
「理太郎、寝てるの?」
もう一度寝ているのかどうか確認する。
やはり返事は返ってこない。理太郎は熟睡していた。
私は笑みを浮かべる。
そして髪を耳にかけながら理太郎に顔を近づけると──キスをした。
一分以上唇を重ねた後、私は顔を離す。
「お、お姉ちゃんなんだから、これくらい普通よね」
そうだ、だって私は理太郎の家族なのだから。家族ならキスくらいは当然。つまりお姉ちゃんが理太郎にキスするのも普通のこと。
自分を納得させるようにそう言ってまた理太郎の唇にキスをした。
それから私は十分以上理太郎の唇を堪能した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます