第10話▶Wけも耳幼げ闘士~おそろいマイクロビキニ(違)でいざ参る!

 アルマディオの発声の後、晴天を埋め尽くし規則的に並んだ魔方陣はその威容から次々と魔物を吐き出し始めた。

 幸いその中に魔族の姿はないけど……多いな。しかもとびきり凶暴な奴らばかり出しやがる。


(おいおいおいおい。言っちゃなんだが、ここってポジション的に「はじまりの町」だぞ!? そんな場所で出していい魔物じゃねぇし、数! なんだよこれ!? 馬鹿じゃねぇの!)


 いや、まあ原因は俺らがいるからなんだけどさ……!

 魔王倒した相手なら、これくらいぶつけるわな。


 シャティの結界で空間が遮断こそされているが、視覚までは無理だ。魔物を目した町の人たちから悲鳴が聞こえはじめる。

 ……この声の数、結構近くに人居るな。流石にアシュレ一人じゃ町全体の避難誘導は無理だ。


「! あんた、それは……!」

「ふははははは! 言っただろう。現在の魔王軍の頂点は僕……じゃない、俺様だと! このくらい容易き事よ!」


 さすがのガーネッタも驚くが、それも仕方がない。俺だって驚いてる。

 奴が使っているのは召喚術の類だが、普通こんな同時に呼び出すことは出来ないはずだ。

 ……どうなってるんだ? 前はこんな術使えなかったはずなのに。


『へぇ、なるほど』

(お前、一人で納得するなよ。……なにか知ってるのか?)

『さあ、どうだろうねぇ』

(このヤロ……ッ)


 意気揚々とナビゲーターを名乗っていたくせに、こちらが知りたい情報は一切よこしやがらねぇなこいつ!


『だって僕、呪いナビだし。呪いについては答えてあげるけれど、それ以外で君の疑問に答えてあげる理由はある?』

(家主様だぞ。敬え)

『あっはっは。いいね、それ。……でも、僕を問いただしている暇は無いようだが?』

「……チッ」


 非常に癪な気分だが、魔王の言う通り問い詰めるのは後にするか。

 魔物は悠長に待ってくれる気はなさそうだ。


 まず五匹ほど、鋭い歯を持つ狼に似た魔物が飛び出しガーネッタを襲った。

 彼女はすぐさまそれを撃ち殺すも、魔物の影にはもう一匹隠れていたようで……真っ黒な鮫がガーネッタの腕に噛みつく。


「ガーネッタ!」


 咄嗟に動こうと思ったが、それよりも早く桃色の残像が目の前を横切った。


「ガーネッタ」

「! モモ」


 ガーネッタに噛みついた魔物はすぐに引き裂かれた。いつの間にか俺の側を離れていたモモが鋭くのばした爪で迎撃したのだ。

 相変わらず咄嗟の判断と俊敏性はぴか一だな。この反応速度は真似できねぇや。

 現在モモの腕は部分的に発達しており、黒い毛皮に覆われた狼のものとなっている。

 彼女の戦闘フォーム、その一だ。攻撃時は肉食獣の特徴が前面に出るみたいなんだよな。


「モモ、助かったよ。ありがとね」

「ううん、いいの」


 笑顔で礼を言うガーネッタとそれをうけて首をふるモモだったが、それも一瞬。すぐにお互いから視線を外し、敵を見据えて戦闘態勢へと戻った。

 彼女たちは可愛いし美しいが、チートを使って五年で急造英雄となった俺と違って経験豊富な戦士なのだ。その様子からは油断や思考のほころびは見受けられない。流石である。


『僕を倒して油断した君とは大違いだねぇ』

(うっせ! 俺だって戦闘中は警戒するさ! あ、あれは倒したと思ったから……)

『一級フラグ建設資格とか持ってたりする? 悪い方の』

(ぎぃぃぃぃッ!!)

『虫みたいな声出すじゃん』

(こ、この……! 罵倒の語彙力無駄に豊富野郎め……!)

『魔王だもの』

(ぐぬぅぅ……ッ!)

『君はうめき声の語彙力豊富だね。あ、これって語彙力っていうのかな。君、知ってる?』

(知らねぇよ!!)


 自分でも分かってる事をわざわざ言われるのは腹立つなこの魔王野郎!! その上次から次へと減らず口を。ミュート機能ねぇのかよ。


 ……って、だからこんな奴にかまってる場合じゃないんだって!


「くっそ」



 イライラしつつも気を取り直す。

 にしてもこのタイミングでの襲撃……みんな頑張ってはくれてるが、実のところ結構きつそうだ。

 それもそのはず。俺達、数時間前に魔王と戦ったばっかりだからな!?

 怪我の治療はすんでいるものの、みんな体力が回復しきっていないためとてもじゃないが万全とは程遠い。


 その事に少々を焦りを覚えると、その気配を察したのかモモがこちらを振り返った。


「ミサオママ、大丈夫。モモたち、強い。ミサオママは今、大変なんでしょう? 任せて。がんばる」

「も、モモ!」


 幼げな言葉使いながら、そこに込められた思いやりの感情がたっぷり伝わってくる。

 …………パーティー内で最も幼く、記憶すらない少女に気を遣わせてしまった。

 俺みたいなのを親のように慕ってくれるモモは、本来俺が気遣う立場だってのに。



(……ああもう! 服がどーだあーだ言ってる場合じゃねぇか! 情けねぇッ!)



 我ながら女々しかった。さっきモモより反応が遅かったのだって、未だ全裸なこの姿で動くのに躊躇したのも原因だろう。

 仲間守る方が優先だってのに馬鹿なこと考えたもんだ。


 あー! やめやめ! 羞恥心は一回捨てろ、俺! 女になろうが変えちゃいけねぇ所はあんだろ!

 みんな自分の役目を果たしてるのに、俺が頑張らなくてどうすんだよ!!



 俺はわずかに残っていた迷いを振り払うと、モモの服をひっつかんだ。









 ……藍染あいぞめみさお、二十一歳! マイクロビキニデビューしてやんよッ!!









 いや……ぎりぎりマイクロビキニではないけど。下はホットパンツだし……だし……。


『君、締まらないね』

(ほっとけ!)





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