第11話▶ご褒美の約束と宣戦布告~ところでメス堕ちポイントって何!?

「おいテメェ! お望み通り相手してやるから、さっさとその雑魚どもしまいやがれ!!」


 モモの服に着替え終わると、散らばった荷物の中から剣を探し出した俺は物陰から躍り出た。

 でもって溜まった鬱憤を晴らすように馬鹿魔族……アルマディオを怒鳴りつけたのだが。


「……ん? お前はさっきからチョロチョロしてる破廉恥地味女」

「誰が破廉恥地味女だァッ!」


 不名誉な呼び方しやがってぶっ飛ばすぞ!!

 こちとら一大決心でこの服を着たってのに、人の勇気を踏みにじるような事を言いやがって!


「裸だと思ったら次はそんなはしたない服を着てるんだ! 破廉恥地味女で何が間違ってる!」

「う、ううううううううるせぇッ!」


 く、くそ。上手く言い返せなくて盛大にどもっちまった……!


 確かに肌色面積は大きいし胸に至ってはいつポロリしてもおかしくない有様だが黙れ!! 心が折れそうになるから黙れーー!!

 ………………。や、やっぱりこの服はモモみたいに毛皮がないと許されない服なのでは……だぁぁッ!! 考えるな!


「つーかお前、地味とか言う割にはちょっと顔赤いじゃねーか!」

「!? な、なにを寝ぼけたことを!」

「寝ぼけてねーわ! 青白い肌の血色良くなるとすぐわかるんだよォッ!! 照れてんじゃねーよ気持ちわりぃな!」

「き、気持ち悪い!?」


 …………。

 なんか思いのほか気持ち悪いと言われたことにショックを受けてるっぽい。

 あいつ顔だけはイケメンだから、もしかして生まれてこのかた言われた事ないとか?

 よし殺す。


『驚くほど心が狭いよね、君』

(わずかな糸口から相手を倒すためのモチベーションを高めてるだけだが?)

『急に早口』


 よし決めた。魔王こいつ殴れない分、部下のあいつを殴る。ぶちのめす。

 テメェのムカつく上司の分も蛸殴りにしてやるからな覚悟しとけよ!!




 羞恥心を超えて一気に高まった闘争心に目をギラギラさせていると、ガーネッタが魔物の相手をしながら問いかけて来た。


「ミサオ、その体で大丈夫かい?」

「ああ、問題ない。強さはそのままだぜ」


 頷くと、手をぐーぱーと握って調子を確かめる。

 だけどそこに女の体になったからといって、不安要素は見受けられない。



 そう。性別こそ変わったが、俺の強さそのものには影響が出ていないっぽいのだ。



 俺にのみに適応される「レベル」という概念。これはガワがいくら変わろうとも、レベルアップの恩恵がもたらした強さ、頑丈さ、素早さ。あらゆる要素はそのままだ。 

 そんな便利な能力を持って五年間も旅して、更には魔王を倒してザクザク経験値が入った俺である。


「負ける要素はねぇよ」


 自信を持って頷いた。

 するとガーネッタは真紅の髪の毛をかきあげ、艶やかに笑う。


「そうかい、だったら任せた。……けど、無理するんじゃないよ?」

「ありがとな、ガーネッタ」


 気遣いに感謝しつつ剣を構える。最終的にマウントとってボコスカ殴ってやりたいけど、それを初手から許してくれる相手でもないからな。


 そうこれからの戦いに意識を向けていた俺の耳元に、後ろへ下がるガーネッタがすれ違いざまに囁いていった。


「ミサオ。……ちゃんと約束、覚えてるからね。ふふっ。これが終わったらご褒美にたっぷり可愛がってやるから、楽しみにしてなよ」

「えっ!」


 格好つけていた顔面の筋肉が一気に溶けたかと思った。

 そしてドクンっと熱く高鳴る鼓動。だって、ガーネッタとの約束って……!






 思い出すのは決戦前夜。






―――― な、なあガーネッタ! こんなことお願いするのもなんだけどさ。もし魔王を倒せたら、俺の初めてを貰ってくれたりとか……してほし……なんて……いや、なんでも……。


―――― おや、可愛いことを言うじゃないか。ミサオなら構わないよ?


―――― 本当!? やったぁぁぁぁぁぁぁッ!!





 っとまあ。そんな会話があったわけで。


『浅い回想だね。というか君、ごにょごにょしすぎ。最後何言ってるか分からなかったんだけど』

(勝手に人の回想を覗き見しておいて罵倒するのやめろよ)



 ……ともかくだ!


 そう!

 実は俺、魔王を倒したらご褒美として経験豊富なガーネッタにいわゆる筆おろしをしてもらう約束をしていたのだ!


 こんなことになってしまったけど、まだその約束は生きてると!?

 さ、さすがだぜ。夫が十人いるお人は懐がでけぇや!


『夫が十人!?』


 感動してたら魔王がなんか驚いてた。


(ん? ああ。ガーネッタは旦那さん十人、子供十二人のビッグママだぞ。つーかお前がそんな驚くのかよ。魔族は一夫多妻も一妻多夫もそれなりにいるって聞いたけど)

『僕は普通の魔族の生態とか知らないし……。え、すご。逆ハーの主じゃん』


 魔王の癖にめちゃくちゃ驚いてるのはどういうことだよ。

 なにか? やっぱり厄災の魔王って他の魔族とちょっと違うのだろうか。


 にしても、そうなんだよな。俺が憧れるハーレム主の先輩がこんな身近にいるんだよな性別逆だけど! やっぱあの包容力かなハーレムのコツは。俺も見習いたい。

 ガーネッタの安心感マジ半端ないもん。包まれたい。

 こう、姉御肌なんだけど男前っつーの? 頼れるんだよなぁ~。

 美人で強くて包容力あって色気もある。最高かな?



 ……と。ついついそんなことを考えてしまった時だった。



【メスメロリンッ♪】

(また!?)



 本日四回目となる謎の音。

 だけど今度はそこに明確なアナウンスが入った。



『はい、おめでとう! 英雄くん、メス堕ちポイント四回目の取得だよ。わーぱちぱちぱち~。君の能力、経験値十倍取得のレベルアップだっけ? だからメス堕ちポイントも十倍取得だねぇ。お得~』

(だからメス堕ちポイントってなんだよ!? さっきも言ってたよな! 少なくともめでたくもお得でもないことは分かるけど!)

『あ、聞きたい? どうしようかな』


 マジでこいつミンチにしたい。


『というかさ、君。もともとメス堕ちの素質あったんじゃない? チョロすぎ。この分だとあっという間に溜まりそうなんだけど』


 魔王の野郎、不穏に不穏を重ねてくる。

 気になる! 気になりすぎるけど……!


(くっ! 今はこいつが先だ!)


 俺はざわつく心を落ち着けると、赤髪の魔族に目を向ける。

 …………? 追撃も無しに妙に静かだなと思ってたら、何やらブツブツ呟いてるな。


「気持ち悪い……この俺様が、気持ち悪い……!?」


 まだ気にしてたのかよ!

 こっちとしては余裕を持てて助かるが。


(色んな意味で気が散ったけど……ここからは真剣勝負だ! 真剣にこいつをぶっ飛ばす!)


 すうっと鼻から息を吸う。

 そしてさっき以上に声を張り、魔族アルマディオに向けて宣戦布告を言い放った。





「俺がお探しの藍染芽 操アイゾメミサオだよ! さあ、とっとと終わらせちまおうぜ!」

 

 





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