第4話 芸能界復帰へ
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
衝撃の事実に、表紙を見ながら固まる。
「あ、お兄ちゃん!雑誌届いたんだね!」
すると、近くにいた寧々に話しかけられ、俺が手に持っている『読モ』を覗き込む。
「おー!ホントにお兄ちゃんが表紙を飾ってるよ!しかも表紙に『夏目凛』って名前も書かれてる!お兄ちゃん、有名人だね!」
今回、雑誌に掲載されるにあたり、俺の芸名は本名にした。
そのため、俺の顔の横には『超絶イケメン、夏目凛!』と書かれていた。
「全く嬉しくないんだが。なんで俺が表紙を飾ってんだよ」
「あっ、それなら私がお兄ちゃんを表紙で使うように頼んだからだよ!」
「………は?」
「私がお兄ちゃんを表紙で使うように頼んだからだよ!」
「いや聞こえとるわ」
寧々の行動理由が理解できない。
(てか、どうやって俺を表紙にさせたんだよ……)
そう思うが、その疑問は一旦置いておく。
「なんでそんなことをしたんだ?」
「そんなの、お兄ちゃんが芸能界に復帰してほしいからだよ!」
寧々が元気に答える。
「私、常々思ってたんだ。もう一度、お兄ちゃんに芸能界で頑張ってほしいって。でも、お兄ちゃんは復帰に対して興味を示さなかった」
時折、寧々から復帰するよう声をかけられるが、俺は断り続けていた。
「俺は母さんが亡くなったことで、芸能界で活動する意味を失った。だから、引退を決断し、復帰するつもりもない」
俺が芸能界を引退した理由は1番近くで応援していたお母さんが病気で亡くなったから。
芸能界で頑張れば、母さんが元気になると信じてた気持ちを裏切られたから。
「あの頃は芸能界で頑張れば母さんの病気が治り、元気になると本気で思っていたからな」
そう思ってた俺は、母さんが亡くなったと同時に芸能界で頑張る意味を無くし、芸能界を引退した。
「そして引退したお兄ちゃんはメディアから執拗に追われ、酷い目に遭った。それから、お兄ちゃんは芸能界から一線を置き、正体がバレないようビクビクした毎日を送っていた」
寧々の言う通り、引退直後にメディアから酷い目に遭わされた。
それを思い出すだけで身震いしてしまう。
「でもね、私はお兄ちゃんにビクビクしながら生活してほしくないんだ。だってこれから一生、バレないよう怯えながら生活することになるんだよ。そんな生活を送るくらいなら、芸能界に復帰してほしい。芸能界で活動してた時のように、毎日を楽しそうに生きてほしい」
寧々が真剣な表情で言う。
「だから私はお兄ちゃんに髪を切ってもらい、スカウトマンに声をかけられる状況を作った。声さえかけてもらえば、カッコいいお兄ちゃんをスカウトマンが手放すわけがないからね。絶対、芸能界に復帰する流れを作れると思ったんだ」
つまり、寧々は意図してこの状況を作ったようだ。
「あとはお兄ちゃん次第だよ。芸能事務所に所属すれば、引退した時に遭ったメディアからのヒドイ事は事務所が守ってくれる。だから選んで、お兄ちゃん」
――このまま一生、正体がバレないよう生き続けるか、芸能界に復帰して、活躍してた頃みたいに毎日を楽しく生きるか。
寧々からの問いかけに俺は黙る。
(メディアは嫌いだが、芸能界が嫌いになったわけじゃない。ただ、芸能界で頑張る意味を失い、やる気が無くなったから引退したんだ)
そう思い、自分に問いかける。
(今の俺に芸能界で活躍したいという気持ちがあるのか?)
その気持ちが無ければ活躍できない世界ということもあり、俺は迷ってしまう。
そんな俺の心を見透かしたかのように寧々が言う。
「私ね、お兄ちゃんが芸能界で活躍するところを見るのが本当に好きだった。お母さんと一緒に応援するのが好きだったんだ。だから、私はお兄ちゃんが復帰したら応援するよ。あの頃のお母さんみたいに、お兄ちゃんを応援し続ける。だから復帰して、お兄ちゃん」
再度、寧々が真剣な表情で言う。
その眼には揺るぎない決意のようなものを感じ、どんな時でも応援するという想いが伝わってくる。
「そうか。寧々は俺が頑張ってるところを見るのが好きだったのか……」
寧々の言う通り、寧々は母さんと一緒に俺の芸能活動を応援してくれた。
(復帰したら寧々が応援してくれる……再開する理由なんて、それだけで十分だろ)
そう思うと、活動していた頃のやる気が心の底から湧いてくる。
「寧々、色々ありがとう。それと心配かけたな」
「ううん、私はお兄ちゃんの妹だからね」
そう言って寧々が笑う。
「俺、復帰するよ。そして寧々が応援し続ける限り、芸能界で頑張るよ」
「お兄ちゃんっ!」
俺の答えに寧々がパーっと笑顔になる。
「それに表紙を飾ってしまったからな。絶対、正体はバレるだろう。それなら、事務所に所属して守ってもらった方がいいからな」
「うんうん!そうだね!」
まんまと寧々の思惑通りに事が進んだような気もするが、そんなのは些細なことだ。
俺に芸能界復帰のキッカケを作ってくれたと思おう。
「だからもう一度、頑張ってみるよ。応援してくれるか?」
俺は寧々に問いかける。
すると、寧々は元気な声で…
「もちろんだよ!」
そう応えてくれた。
こうして俺は、再び芸能界の世界へ飛び込むこととなった。
【1章完結】
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