髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
1章 プロローグ
第1話 プロローグ
とあるイベントに参加した俺は、たくさんの声援を耳にしながらステージに上がっていた。
「きゃーっ!リン様よ!」
「国宝級イケメンランキングで堂々の1位を獲得したリン様!カッコ良すぎるっ!」
「はぅ〜」
「おいっ!女性が倒れたぞ!誰か担架を持ってこいっ!」
そんな騒ぎが起きている中、俺はステージに置いてある椅子に座る。
(なんでこんなことになったんだろう……やっぱり髪を切ったからだろうなぁ)
そんなことを思いつつ、俺は髪を切った春休みのことを思い出した。
♦︎
「お兄ちゃん!今日は予定入れてないよね!?」
「あぁ。寧々に言われた通り、今日は予定を入れてないぞ」
高校を卒業し、来月の4月から大学生となる俺、
夏目寧々は茶髪をツーサイドアップに結んだ双子の妹で、俺と同じく来月から大学生となる。
街中を歩けば10人中10人が振り返るほどの美少女で、高校では校内1の美少女と呼ばれていた。
「それで、今日は何かあるのか?」
「うん!今日は超有名な美容師さんにお兄ちゃんの髪を切ってもらうんだ!」
「………は?」
「予約しても施術は半年後になるくらい有名な美容師さんだからね!切っても絶対、後悔しないから!」
そう言って俺の手を引っ張って外に連れ出す。
寧々からは常々、目元まで伸ばしている前髪を切れと言われていた。
そんな寧々の言葉を無視し続けていたら、強硬手段に出られたようだ。
「お兄ちゃんが何で髪を伸ばしてるかは理解してるよ。昔、天才子役って呼ばれて有名だったから、それがバレないように髪で目元を隠してるんだよね?」
俺は小学生の頃、『夏目レン』という名前でたくさんのテレビに出演していた。
しかし、母さんの死後、俺は芸能活動を辞めた。
理由は芸能界で活動していた俺のことを1番応援してくれていた母さんが亡くなったから。
その日以降、俺は芸能界で活動する意味を失い、芸能界を引退した。
突然の引退だったことでメディアに追われて大変だった俺は、気がつけば髪で正体を隠すようになっていた。
「でも、お兄ちゃんが芸能界で活動してたのは小学生6年生までの話!あれから6年経ってるんだから、お兄ちゃんの顔を見て夏目レンを思い出す人なんていないよ!しかも、お兄ちゃんは本名で活動してなかったんだから尚更だよ!」
「そう……だな」
寧々の言う通り、忘れてる人は多いと思う。
それに、今の髪を鬱陶しいと思っている自分もいた。
(この髪のせいで中学、高校の頃は「根暗」だの「陰キャ」だの言われたからなぁ。そのおかげで友達はゼロだし)
幸い、中学と高校は寧々が同じ学校だったので、独りぼっちということはなかったが。
「だから大学生デビューのためにも絶対、髪を切ろ!」
「だ、大学生デビューだと!?」
「うんっ!お兄ちゃんはカッコいいから、きっとモテモテ生活だよ!」
とても魅力的な提案に俺の心が揺らぐ。
(寧々の言った通り、活動してた時から6年も経ってる。それに髪を伸ばして生活するのもうんざりしていた)
「そう……だな。バレないとは言い切れないが、6年も経てば誤魔化せるか。それに寧々が予約した美容師は半年待つくらいの凄腕。いい機会だから切ってもらうか」
「うんっ!じゃあ、美容室へレッツゴー!」
俺は寧々と一緒に美容室を目指し、外出した。
美容室に到着した俺は、寧々に紹介された凄腕美容師に髪を切ってもらった。
凄腕と呼ばれるだけあって見事な手際で、今の俺は前髪を短めに切り、両サイドにはブロックを入れている。
そして髪の毛をワックスなどで整えおり、爽やかなイケメンに仕上がっている。
ちなみに、俺が髪を切った姿を目にした寧々は「ま、待って!直視できないくらいカッコいいから5分だけ待って!」とか言って、10分くらい俺の顔を見ては逸らすことを繰り返した。
「ねっ!誰もお兄ちゃんが昔、芸能界で活躍してた夏目レンって気づかなかったでしょ!?」
「そうだな。美容室でいろんな人から注目を浴びたけど、誰1人として夏目レンの名前を出さなかったな。それに今も街中を歩いてるけど、誰も声をかけて来ない。やっぱり、みんな俺が夏目レンってことに気づかないんだな」
「通り過ぎる女性たちが5度見くらいしてるけどね」
そんなことを話しながら家を目指して歩いた。
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