騎士とぬいぐるみ

「今日はヴィクトとテオドールを進化させるよ!」


「はーいっ!」


「はっ!」


「ん」


 三姉妹がいると、ダンジョン探索がとても賑やかだ。

 今までは話せる人が誰もいなかったから、わりと黙々としたものだった。

 ダンジョン攻略やレベリングはすごく楽しいし、言葉は交わせなくても魔物たちはリアクションしてくれる。

 なので、不満だったり寂しいと思ったりしたことはない。


 それでも、やっぱり賑やかだともっと楽しい。

 天真爛漫で元気な長女クーリエ、寡黙で不思議ちゃんな次女ミュール、献身的でしっかり者の三女レキ。

 それぞれに個性があって私のダンジョン探索を彩ってくれる。


 さて、今日も今日とてレベリングだ。

 クーリエたち三姉妹とワイワイしながらゴブリンを倒して、経験値を稼いでいく。

 目標はヴィクトとテオドールの進化。

 昨日の時点でかなり進化まで近づいていたので、すぐに進化可能レベルへと辿り着く。


「最初はヴィクトだね」


 テオドールより先に、ヴィクトが進化可能レベルに到達する。

 ヴィクトは常に最前線で戦ってきた。そのおかげで経験値も多く獲得できる。

 対してテオドールは私の護衛だから戦闘への参加が少し少なくなってしまうのだ。


 テオドールに悪い気がしてしまうけど、この子は今のポジションが気に入っているみたいなので安心。

 便利で対応力に優れる念動力と『体内収納』のおかげで私の仲間たちの中では特殊な立ち位置のテオドール。

 もう私の腕の中がこの子の定位置だ。


 さておき、ヴィクトの進化だ。


「進化先は……『大騎士霊鎧アークナイト・ゴースト』か」


 ヴィクトは二回目の進化だけど、前回と同じく進化先は一択。

 でも、ヴィクトに関しては進化先の派生なんかは求めてないからこれでいいと思う。


 彼の役割は今も昔も、そしてこの先もきっと同じ。

 変わらないパーティのエースだから、このままの真っ直ぐ成長していってくれるのが一番だ。


 いよいよB級魔物となるヴィクト。

 B級魔物といえば、一般的には村程度の規模なら単騎で簡単に滅ぼしてしまうような魔物とされる。

 冒険者で対処するとなれば、C級上位の強さを持つ者が最低限。

 確実性を取るならB級冒険者が必要だ。


 つまり、上級冒険者に匹敵する強さを持つのがB級魔物ということ。

 ヴィクトに関して言えば『赤熱の心臓』があるのだから、倒すには最高位のA冒険者が必要かもしれない。


 何が言いたいかというと、それほどヴィクトはすごいということである。


「私はE級冒険者なのに……すごい実力詐欺してる気分」


 私の冒険者としてのランクは王都ダンジョン20階を突破したことによってE級。

 そのくせ従えている魔物がB級とC級。

 レベリングを極めすぎた実力詐欺師である。


 恐るべきはやはり『召喚魔法』のレベリング効率だ。

 まだ本格的に冒険者として活動を始めてからたった三ヶ月程度。

 私の魔法がチートすぎてもうここまで来てしまったよ。


「でも、魔物が強くても私自身は弱いから注意しないと」


「あるじ様はそれがしが守ります!」


「ありがと」


「うちもっ!」


「こなたも……」


 嬉しいことを言ってくれるレキの頭を撫でる。

 そうすると、自分も自分もと集まってくるのが三姉妹。二人の頭も撫でてあげると気持ちよさそうな笑顔を浮かべる。

 なんてかわいい子たちなんだ。

 これが元はかわいげのかけらもない骸骨なのだから、びっくりである。


 少し感慨にふけってしまったけど、改めてヴィクトの進化だ。


進化エボルヴ:ヴィクト!」


 C級魔物『大霊騎士リビング・パラディン』からB級魔物『大騎士霊鎧アークナイト・ゴースト』へ。


 光が収まり、進化したヴィクトの姿が露わになる。

 スマートな白銀の鎧はそのまま。華美な金色の意匠が鎧や大剣、大盾に追加されていて美しい。

 高位の騎士が儀礼のために用立てるような、機能性より芸術性に重きをおいた鎧。

 そんなイメージ。

 要約すると、ものすごくかっこいい。


「かっこいいー!」


 クーリエが進化したばかりのヴィクトの体をよじ登り、肩に乗った。

 ヴィクトは抵抗などせず、やれやれといった感じではしゃぐクーリエの相手をしている。

 なんというか、近所の面倒見の良いお兄ちゃんといった感じだ。


「ヴィクトの能力は……」


 進化したヴィクトは、長所をそのまま伸ばしたような能力をしている。

 前衛として必要な攻撃力と防御力を高い水準で兼ね備えた頼り甲斐のあるステータス。

 それに加えて『斬波』による遠距離攻撃も可能だ。

 まったく隙のないシンプルに強い魔物だ。


 それに加えて、今回の進化で新たに得たスキルがあった。


「『守護』か。ヴィクトらしいね」


 苦笑してしまう。

 私を守るために遠距離攻撃の『斬波』を手に入れたヴィクトは、今度は『守護』というスキルを獲得した。

 その効果は、あらかじめ決めておいた味方一人が受けるダメージの肩代わり。

 本当にヴィクトらしいスキルだ。まさに騎士って感じ。


「それにしても強くなったなあ」

 

 私の魔物たちの中ではヴィクトが一番の古株で、付き合いが一番長い。

 それこそ、私が前世の記憶を思い出すよりもずっと前。

 辺境伯家の騎士たちに協力してもらって契約した初めての魔物だ。

 ヴィクトには思い入れというか、格別の気持ちがある。


 そんなヴィクトがここまで強くなるなんて本当に感慨深い。

 今だったら、辺境伯家の騎士たちにだってきっと負けない。

 なんだか感動してしまうよ。


「さ、次はテオドールだね」


 ヴィクトの進化後すぐに進化可能となったテオドール。

 進化先は二つあった。

 アンデッドとしての方向に進化する『大騒霊ポルターガイスト』。

 人形としての側面が強調された『付喪神つくもがみ』。


 どっちに進化しても能力の違いはほとんどなさそう。

 だけど私としてはテオドールのことはアンデッドではなくぬいぐるみというか、マスコットというか。

 そんな感じに思っているので『大騒霊ポルターガイスト』はちょっと違う感じがする。

 なので『付喪神つくもがみ』にしようかな。


「決めた。進化エボルヴ:テオドール!」


 テオドールはC級魔物『霊魂人形スピリット・ドール』からB級の『付喪神つくもがみ』へと進化する。

 進化の光に包まれたテオドールだけど、やはり見た目に変化はない。

 相変わらずのかわいらしいクマのぬいぐるみだ。


 撫でてみると、当たり前のようにもふもふ感が増している。

 多分テオドールは進化をトリマーかなんかと勘違いしているのだと思う。

 より素晴らしい毛並みへと成長したテオドールに顔を押し付けて吸うと、多幸感が押し寄せてきた。


「こ、こなたも、それやりたい……」


 夢中になって吸引していたらミュールにテオドールを取られた。


 改めてテオドールの能力を確認する。

 ステータスは今までの進化と同様に魔力方面に特化。

 新しいスキルとして『加護』と『奇跡』を獲得した。


 ひとつ目の『加護』は仲間に対して使うスキルで、各種ステータスや状態異常耐性のいずれかを強化する効果。

 敵に対して妨害や状態異常付与などのデバフができるミュールとは反対で、テオドールは味方を強化するバッファーになったらしい。


 バッファーは私の仲間たちにいなかったロールだから嬉しい。

 私も一応『過重召喚オーバーロード』で契約魔物を強化できるけど燃費がすごく悪いんだよ。


 二つ目のスキルである『奇跡』は、持ち主の運を上げるという効果。

 テオドールは人形だから、その持ち主というのは当然ながら私。

 私の運がさらに上がるらしい。

 迷宮器がさらに手に入りやすくなるなら嬉しい。


「さて、これで準備は整ったね」


 私の『召喚魔法』で契約しているのは、六種の魔物。

 B級の魔物がヴィクト、テオドールの二体。

 C級がクーリエ、ミュール、レキの三人加えてリーフィス。


 多分、村と言わず小さな町レベルなら落とせる戦力だ。

 やらないけどね。


 これで、ひとまずこの階層でのレベリングは終わりでいいだろう。

 十二分に準備を整えた私は、次の階へと進むことを決める。


 目指すは31階へ。

 そこまで到達することで私の冒険者ランクはD級に。

 ついに中級冒険者と呼ばれることになる。


「よし、行こう!」


 心強い仲間たちを従えた私は、21階のボス部屋へと足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る