幼女祭り

 進化ラッシュが来そうだ。


 レキとリーフィスの進化後より一層レベリングに励んでいる。

 その結果、みんなのレベルが上がってすぐにでも進化できそうなところまで来ていた。

 レキとリーフィスに関しても同じだ。


 進化したばかりの二体だけど、他の魔物たちとランク差が生まれてしまうのを危惧して優先して戦わせてたからレベルも追いついてきている。


 そんな仲、一番最初に進化へとこぎつけたのはクーリエだった。


「クーリエの進化先は……」


 出てきたのは三種類。

 現在の種族である『骸骨戦士ウォーリア・スケルトン』をそのまま強化したような種族の『竜牙兵スパルトイ』。

 巨大化した『骸骨巨兵ヒュージ・スケルトン』。

 そして最後が『亜種吸血鬼デミ・ヴァンプ』。


「吸血鬼!」


 それを見た瞬間、私はノータイムで『亜種吸血鬼デミ・ヴァンプ』に決めてしまった。

 だってしょうがない。オタクは吸血鬼とか好きなのよ。


 クーリエが進化して、その姿が今までと様変わりする。

 進化の光から出てきたのは、なんと一人の女の子だった。


 身長は私より低く、小学校高学年の子どもくらい。

 雪のように真っ白な肌と、肩甲骨あたりまである真っ白な髪。

 顔立ちは、なんとなく私に似てる?

 目を瞑って立ちすくむ姿は、真っ白さも相まってなんだか神秘的に見えた。


「クーリエ……?」


 あまりの変貌に思わず尋ねると、少女は目をカッと見開く。

 赤い視線が仲間の魔物たちを見渡し最後に私のところで止まると、無表情だった顔がぱあっと花開くような笑みに変わる。


「ご主人っ!」

 

「わっ!?」


 飛び込んでくる少女を受け止めきれず後ろに倒れそうになる。

 だけど、ヴィクトが背中を支えてくれたので倒れずに済んだ。

 抜け目のないテオドールは少女が突撃してくるのを察知してヴィクトの頭の上へと退避していた。


「えっと、クーリエでいいんだよね……?」


「うんっ!」


 短く答え、私のお腹へと頭をぐりぐりするクーリエ。


「頭撫でてっ!」


「え、と。うん」


 ご要望通りに撫でてやると、クーリエは嬉しそうにする。


「えへへ」


 完全に幼女である。

 どうやらクーリエは『亜種吸血鬼デミ・ヴァンプ』へと進化して幼女になったらしい。

 骸骨が吸血鬼になって肉体を手に入れるのはわかるけど、なんでこんなにちっちゃくなったのか。

 クーリエは私より身長高かったのに。


 少し動揺していた私だけど、クーリエの頭を撫でているうちに少し落ち着く。

 彼女の能力を見てみると、物理一辺倒だった『骸骨戦士ウォーリア・スケルトン』からそのままに物理に特化した能力をしている。

 特筆するべきは進化することで獲得したスキル、『血装ウォーリア・ブラッド』。


「クーリエ、『血装ウォーリア・ブラッド』見せて」


「んっ!」


 クーリエがスキルを発動すると、少女の腕から血が溢れ出て棍棒を形取る。

 私もよく見慣れた、進化する前から使っていたクーリエの棍棒だ。


「剣とか、鎧にもなるよ!」


 今度は棍棒が剣の姿へと変わる。

 さらには纏っていた白い貫頭衣のような衣服の上から、赤色の血液が鎧のようにクーリエの体を包んだ。


 試しに、クーリエはその辺にいた適当な『ゴブリン・ゴリラ』へと挑み掛かる。


「たーっ!」


 手に持った剣を投げつけるが、『ゴブリン・ゴリラ』に躱される。

 しかし、投げつけた剣がその姿を鎖に変えて背後から敵の体を拘束する。

 かなり強力に縛られているようで『ゴブリン・ゴリラ』は動けない。

 その隙をついて、クーリエは新たに『血装ウォーリア・ブラッド』で棍棒を作り出しタコ殴りにして撃破する。


「便利だね」


「良いでしょー!」


 自慢げに胸を張るクーリエにほっこりする。

 だけど、鑑定によると『血装ウォーリア・ブラッド』には弱点があるらしい。

 このスキルを使うには他者の血を必要とするらしいのだ。もっとも、魔物の血とかでもいいらしいけど。


「ご主人、血ちょうだい〜」


 そんなわけでクーリエにおねだりされた。

 断ることでもないので了承する。


「いいよ。飲みすぎないでね」


「やったっ!」


 嬉しそうに首筋に噛み付いてきたクーリエにちゅーちゅーと血を吸われる。

 不思議と痛くはないけど、なんか変な気分になるね。

 これ、あれかな。より多くの血を吸うために、痛みじゃなくて快楽を与えるみたいな。

 ……平常心、平常心。


「も、もういいでしょ。終わり!」


「んく、ごちそーさま!」


 少しでも気を許すと病みつきになってしまいそうだ。

 熱くなってくる頬を仰いで考える。


 これはよくないよね。何か代案を考えておく必要がありそうだ。

 私のためにも、精神が幼女っぽいクーリエの情操教育のためにも。

 ……たまにはならいいかな。


 そして今度は、ミュールの進化の番だった。

 進化先は『死の賢者リッチ』。

 リッチと言えば、前世では吸血鬼に並ぶ上位アンデッドの定番だった。

 たいていのファンタジーで強キャラとして君臨する存在。

 他にも候補はあったけど、こっちも即断で決めてしまった。


「……ミュールもかあ」


 進化したミュールの姿は、こちらもクーリエと同じような幼女であった。

 真っ白な肌と、おさげにした白い髪。

 長い前髪の隙間から覗くのは、蒼玉の視線。

 全身を覆うローブを纏っていて、手には杖を。

 もはやミュールのトレードマークといっていい嘴マスクは首にかけている。


「マスター」


 小さく呟いたミュールが、ひしと抱きついてくる。

 クーリエと瓜二つの顔は無表情で固定されているけど、親愛の感情は十分すぎるほどに伝わってくる。


 こんな見た目のミュールだけど、その強さはC級魔物として相応しいものを持っていた。

 変わらず使える『闇魔法』は妨害や状態異常により特化。さらに『死魔法』という魔法を覚えた。


「ミュール、『死魔法』見せて」


「ん」


 新しい能力の確認のためにミュールにお願いする。

 するとミュールは杖を掲げて、魔法を唱えた。


「下級アンデッド生成:骸骨スケルトン


 ミュールの魔法によって、地面から湧き出てくるように何体もの骸骨が出てくる。

 骸骨たちはミュールの支配下になっているらしく、従順に命令を聞くようだ。

 ミュールが杖を指した先にいたゴブリンへと骸骨たちが殺到していく。


 しかしこの階層に現れるゴブリンはD級の上位種。

 F級の骸骨では束になったところでどうにもならず、簡単に倒されてしまう。

 でも、そんなことは当然ミュールもわかっていた。

 少女は追撃の魔法放つ。


「『死の波紋デス・バースト』」


 炸裂。

 ゴブリンに群がっていた骸骨たちが、ゴブリンを巻き込んで一斉に爆発してしまう。

 離れた私の方にまで衝撃が伝わるような爆発を間近で受けたゴブリンはたまらない。

 全身を焼け焦がしたまま、事切れていた。


 どうやらアンデッドを生成して、それを活用する魔法。

 それが『死魔法』らしい。


 今回は魔物を倒すために自爆させたけど、数を用意できるのなら他にも様々な用途に利用ができそうだ。

 それに、今回使ったのは『下級アンデッド生成』。そのため直接的な戦力にはならなかった。

 でも、もしこれが今後の成長で中級、上級、となっていけばわざわざ爆発させなくても戦力になるだろう。


 それに、生成できる数も増えていくだろうし。

 いつかはミュールの『死魔法』によって強力なアンデッドの軍勢が作れるのかも。


「どう?」


 無表情ながら、自慢げな様子のミュール。


「すごい魔法だね」


「ん」


 頭を撫でてやると満足気になる。

 私がミュールを撫でていると、反対からクーリエが抱きついてきた。


「うちもっ! うちも撫でて!」


 なんだこれは、幼女祭りか。

 左右の手でわしゃわしゃとクーリエとミュールを撫でまくる。

 すると、今度はテオドールが私の頭へと乗っかってきた。

 俺も撫でてと言わんばかりの思念を発してくるテオドール。


 とんでもないことになってしまった。

 幼女ともふもふだ。みんなかわいすぎる。

 私はとても幸せだった。


 その後ゴブリン狩りに戻るも、すぐに次の魔物が進化可能になる。

 今度はレキだ。


 積極的に経験値を与えるよう意識していたこともあり、前回の進化から早くも次の進化。

 レキもクーリエとミュールと同じ『骸骨スケルトン』から進化してきた魔物。


 どんな進化になるのか、なんとなく予想がついちゃうよ。

 

 

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