召喚魔法の真価

「あ、迷宮器だ」


 最近はずっと21階でレベリングをしている。

 そんな中で、宝箱の中から迷宮器が出てきた。

 効果は装備者の筋力を上げるというもの。といっても、効果量は低くあまり実用的ではない。


 特筆すべきは、迷宮器の効果ではなく獲得頻度。


「これで今月四個目かあ」


 レヴール王立学園に入学して二月ほどが過ぎ。

 寒い季節となってくる十一月に入って、まだ半分も過ぎていない。

 それにもかかわらず今月は迷宮器をもう四個も見つけてしまっている。


 これははっきり言って異常なペース。

 だけど、理由はしっかりとわかっている。


「運を上げる迷宮器。人気がないのかどれも安かったけど……」


 私が今身につけている迷宮器は合計で六個。

 一番大事な迷宮器である『智慧の義眼』と、私が自分で見つけた『流れ星の指輪』。

 あとは迷宮器を扱っているお店で買ってきた幸運を上げるものを四つ。


 20階のボスである鬼人オーガと戦ったあの日。

 出現した個体が『イレギュラー』だった理由として、運を上げる効果を持った『流れ星の指輪』がその一つだった可能性があった。


 あのときは理不尽だなんて思ったけど。

 後になって考えてみると、その過程はどうあれ極めて強力な迷宮器である『赤熱の心臓』が手に入ったのはたしかに幸運だった。


 そこで私は思ったのだ。

 もっと運を上げる迷宮器をじゃらじゃら付けていれば、迷宮器がたくさん手に入るんじゃないかって。


「本当に効果あるんだからびっくりだよ」


 その結果が今月に入って早くも手に入れた四つの迷宮器だ。

 だけど、どれもたいした効果はない微妙な迷宮器。

 21階はまだ浅層と呼ばれる領域。ここで手に入る迷宮器は『イレギュラー』が出ない限りたかが知れているようだ。


 ただ、便利そうなものも中にはあった。

『代償の黒柩』という金の装飾がなされた黒い棺だ。

 直立できるように支えがあり、蓋の部分に苦悶の表情を浮かべた女性のレリーフが描かれている。


 この迷宮器には『代償魔力』という能力があった。

 底面に穴が開いていてその中に迷宮器を入れることで、その迷宮器を失う代わりに魔力を得るというもの。

 得られる魔力は投入した迷宮器の質によって変わる。


 一度きりしか使えない魔力を得るために、貴重な迷宮器を使い捨てるという非常に燃費の悪いもの。

 とはいえ戦いの最中には何が起こるかわからない。

 多大な魔力を得ることで死の危険から遠ざかることができるかもしれないし、持っといて損はない迷宮器だと思う。


 不意の『イレギュラー』で命の危機に陥った経験があるのだから、奥の手はいくらあっても困らないよ。


 あととても頑丈で、直立させて設置すれば私の身の丈以上の高さがあるので盾としても使えるかも。


「あ、そろそろ進化だね」


 21階のゴブリンを倒しまわっていると、レキのレベルが進化可能レベルまで達していた。

 レキはすでにこの間E級魔物の『彷徨う骸骨バークラント・スケルトン』へと進化している。

 今回は二度目の進化だ。


 同じ『彷徨う骸骨バークラント・スケルトン』だったクーリエとミュールは、次の進化で『骸骨戦士ウォーリア・スケルトン』や『骸骨術士メイジ・スケルトン』へと進化した。

 それを考えると、この進化でレキは罠解除できるような魔物に進化してくれそうだけど。


「進化先は、『骸骨農家ファーマー・スケルトン』と『骸骨弓士アーチャー・スケルトン』に……『骸骨盗賊シーフ・スケルトン』! よし!」


 目論見通り、レキの進化先に罠解除が可能な『骸骨盗賊シーフ・スケルトン』が現れている。

 弓を使わせていたから『骸骨弓士アーチャー・スケルトン』が出てるし、罠解除に挑戦させたり偵察させたりしてたから『骸骨盗賊シーフ・スケルトン』が出たのだ。

 これはもう、確定だ。


「やっぱり、召喚魔法は魔物の進化をある程度コントロールできる……」


 棍棒で戦わせて『骸骨戦士ウォーリア・スケルトン』になったクーリエ、それっぽい格好をさせた結果『骸骨術士メイジ・スケルトン』に進化したミュール。

 そして私が欲しいと思ってた魔法鞄と同じ効果のスキル『体内収納』を獲得したテオドール。

 それに加えて今回のレキだ。


 これだけ続けばもう偶然じゃない。


「きっとこれが、召喚魔法の真価なんだ」


 面白いのが私の意思だけじゃなくて、魔物の意思も反映すること。

 その証拠にヴィクトは私を守るための手段を増やすために遠距離攻撃の『斬波』を覚えた。


「本当にすごい魔法だよ」


 D級の『盗賊骸骨シーフ・スケルトン』へと進化したレキ。

 服装がより盗賊っぽいというか、とにかく身軽。

 胸部を守る胸当てと、動きやすそうなショートパンツ。足元には頑丈さと歩きやすさを両立させたブーツ。

 お腹や腕、脚を大胆に見せた露出の多い際どい格好だ。

 ただし骨だけど。


 レキはクーリエとミュールよりも身長が低く、私よりも少し高いくらい。

 なので多分、女の子。

 もしこの服装で骨じゃなかったらたいへんな格好だ。


 兎にも角にも、これで無事に罠解除要因はゲットできた。


 罠の危険性がぐっと低くなったので、これからはより積極的にダンジョンでの活動ができそうだ。

 ただ、まだ今のレベルに満足していないのでしばらくここでレベリング。

 先の階層へ進むのはもう少し先にしよう。


「今度はリーフィスだね」


 リーフィスも進化可能レベルに達した。


 耐久力に優れたE級魔物『動く死体リビング・デッド』。

 罠解除、という名の肉壁を担っていたリーフィスはレキの進化によって罠解除要因としての役目を終えた。

 でも、それでおさらばなんて言わない。


 これからは、ヴィクトと一緒にパーティの先頭で盾役として活躍してもらうのだ。


「リーフィスは……『屍の巨人ヒュージ・デッド』だね」


 いくつかある進化先の中で、もっとも耐久力に優れる魔物が『屍の巨人ヒュージ・デッド』だった。

 他には『腐肉食らいグール』なんて魔物もいた。こっちは腐った死体じゃないので臭くなさそう。

 ちょっと揺れたけど、やっぱり役割を考えてより耐久力の高くなる『屍の巨人ヒュージ・デッド』に決めた。


 進化したリーフィスの姿は、今までと同じゾンビのお手本のような見た目。

 違いは、名前の通りやはりその体格。

 成人男性の平均身長くらいだった身長が一気に伸びて、ヴィクトと同じくらいになっている。


 見上げるような巨人になられても大き過ぎて困るから、ちょうどいいくらいの身長だろう。

鬼人オーガ』くらい高いとダンジョン探索に支障が出てしまいそうだ。


 能力は単純に耐久力をぐっと伸ばした感じ。

 なんと耐久力に関してはヴィクトよりもずっと上。

 実際のところは大盾で防いだり回避したりといった技術面に優れるため、数値以上にヴィクトは硬い。

 なのでどっちが盾役として強いのかはわからないけど。


「あれ、スキルも追加されてる。……『消臭』って、臭い臭い言われるのがよっぽど嫌だったのかな」


 リーフィスの獲得した『消臭』のスキルは自身の匂いを消すというもの。

 臭い匂いに関しては迷宮器で対処してたし、戦闘に何か役に立つタイプのスキルでもない。

 もちろん私も別にこんなスキルをとって欲しいとは思っていなかった。


 それでもリーフィスが『消臭』を覚えたのは、リーフィス自身の意思なんだろうなあ。


「くさいって言ってごめんね、リーフィス」


「ゔぅ……あ゛」


 リーフィスに謝ると、おどろおどろしい呻き声をあげて満足そうな雰囲気。

 かなり気にしてたっぽい。


 その後もしばらくレベリングを続けて、いい感じのところで切り上げてダンジョンを出た。


 今日はレキとリーフィスが進化したけど、他の魔物たちもレベルが上がってきている。

 そろそろまた一斉に進化してくれそうだ。

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