鬼人
先手を打ったのは
巨大な身体で駆け出した
それをカバーするのはヴィクトだ。
左手の大盾を頭上に掲げ仲間の前に躍り出る白銀の騎士へと、巨大な石柱が振り下ろされた。
激突。
爆発音のような衝撃が広いボス部屋に響く。
だけど、鬼人の強力な一撃を受け止めたヴィクトの身体は小揺るぎもしない。
いかに
D級の
その間には、たしかな能力差があった。
先手をしのいだヴィクトは大盾を押し返す。
大盾とともに押し込まれ、わずかにバランスを崩した
致命傷を逃れるために
盾にした左腕は無事では済まず。肘から先を失った。
しかし、
初撃で腕を切り飛ばし、優位を取ったヴィクトは慢心も油断もせず堅実に立ち回っていた。
それに対して片腕を失い、能力的にもヴィクトに劣る
ヴィクトが無傷で戦う一方で、あれだけ強大に見えたボスは次第に傷を増やしていく。
こうなればもう結果は見えたようなものだ。
だけど、そう簡単に終わる相手ではなかった。
全身に傷を作ったボロボロの
このままならもうすぐ倒せるだろう。
そんなふうに思った矢先、突然その動きが良くなった。
「ヴィクト!」
なかったはずの左腕が再生し、不意を突かれたヴィクトが殴り飛ばされる。
思わず叫んでしまうが、ヴィクトの心配をしてる場合ではなかった。
私が魔物たちのリーダーだとでも思ったのだろうか。
ヴィクトは常に私へと
その様子からヴィクトにとって私こそが弱点だと。そう見抜いたのだろう。賢い魔物だ。
そんなのが迫ってくるのだから、当然怖い。
だけど私は勇気と意地で震える脚を抑えつけ、一歩も引かずに立ち向かう。
「テオドール、動きを止めて!」
私の声に答えたテオドールが、年動力で|鬼人『オーガ》の動きを止めた。
しかし赤いオーラが立ち上る
きっと、テオドールの制止とて強力なパワーで強引に抜け出すだろう。
だけどテオドールのおかげで少しの時間を稼げた。
それだけの時間があれば十分だ。
速足で駆けつけて来たのは白銀の騎士。
テオドールの静止が破られる寸前に、復帰したヴィクトが私の前に立つ。
そうして始まるのは、騎士と
大剣と大盾を巧みに操り、技術によって立ち回るヴィクト。巨大な石柱を荒々しく振り回し、力によって蹂躙する
真逆の戦いをする二体の魔物。
しかしさっきまでの戦いとは違う。
二体の魔物の強さが完全に逆転しているのだ。
赤いオーラを纏った
ここに来る前に情報収集はしたけど、
20階にいていい魔物とはとても思えない。多分、B級相当の力がある。
それでもヴィクトは、完全な格上を相手に一歩も譲らずにその怒涛の攻めをしのぎ切る。
鎧も盾も剣も傷だらけだ。
だけど、ひたすら守りに専念することで致命的なダメージだけは回避することができていた。
勝機を信じて、仲間を信じて。守るために力を尽くす。
その有り様は、まさしく騎士だった。
そんなヴィクトの想いに応えるように、
ミュールの闇魔法だ。
圧倒的な能力差の影響で通りが悪かった状態異常の魔法。ミュールは必死にそれを
それがここにきてやっと効いたのだ。
麻痺して一時的に動けなくなった
骸骨の戦士、クーリエだ。
機動力に優れたクーリエが
渾身の力で振り切った棍棒が敵の顔面を強打。
おそらくクーリエと
だけど最初からダメージの有無など関係なかった。
頭部へと大きな衝撃を受けたことによって、その巨体の重心が崩れて後ろへと倒れる。
それがクーリエの狙いだった。
高い位置にあった
ヴィクトはすでに動き始めていた。
私はここだ、と確信した。
「
白銀の騎士が、黄金のオーラを纏って輝く。
この魔法は召喚魔法の奥の手のひとつ。
大量の魔力を消費することで、一時的に契約魔物の能力を劇的に引き上げる。
それこそC級の魔物の刃が、B級の魔物の命へと届くような劇的な強化。
黄金の光を放つヴィクトの構えるボロボロの大剣に、青白い光が宿る。
斬波。ヴィクトの唯一の攻撃スキル。
青白い光は今までの比ではないほどに大きく、力強く輝く。
そして、一閃。
思わず目を瞑ってしまうほどの光量が解き放たれる。
極光の斬撃は倒れる
しん、とすべての音が消え去った錯覚を受けるような一瞬。
激戦の終わりは、あっけないほどに静かに感じた。
首が断たれた
それを見届けて私はやっと実感した。
勝ったんだ。
湧き出るような嬉しさと、達成感。押し殺していた不安が裏返った安心感と爽快感。
押し寄せてくるごちゃごちゃな感情たち。
私は堪えきれず、両手を空に掲げて叫んだ。
「勝ったーーーー!!!」
お腹の奥から今まで出したことのないほどの大きな声を出す。この喜びを、表現するのに叫ぶ以外に思いつかなかった。
でも、やっぱり疲れていたようで。
緊張から解放された脚がふいに脱力してしまう。
「わっ……!」
後ろに倒れそうな私を支えてくれたのはヴィクトだった。
激戦の中で盾はひびだらけ。剣は刃こぼれしてボロボロ。
あれだけ綺麗だった甲冑は見る影もない。
それでも、私を支える傷だらけなヴィクトの姿はこの世界の何よりもかっこよく見えた。
「ありがとう、ヴィクト」
嬉しそうに空を舞うテオドール。
肩を組んで讃えあうクーリエとミュール。
剣を掲げ、勝利を捧げるヴィクト。
私たちは、しばらくの間余韻に浸っていた。
少し休んでから
あれだけ苦戦しただけに、死んでいるとわかっていてもちょっと怖い。
「大丈夫……よし」
自分を鼓舞して、解体用の短剣を片手に作業に取り掛かった。
換金可能部位を取り出していき、テオドールの
そんな作業の中、魔石を取り出そうとしたときに奇妙なものを見つけた。
正六面体の透明な箱の中に、赤い十二面体が入ったような形状の不思議なもの。
こんなのが魔石だとは思えない。
私は、取り出したキューブへと鑑定をかける。
「これ、迷宮器……?」
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