テオドールのお腹

進化エボルヴ:テオドール!」


 テオドールを進化させる。

 見た目はやはり変わらない。でも、触ってみるともふもふ感がさらに増していた。


「ふへへ、もふもふ」


 テオドールに顔を埋めて吸引する。最近ハマっているテオドール吸いである。


 こうしていると、もふもふ感が増しているからか今までよりもっと幸せな気分になれる。

 進化するたびにもふもふが増していく。

 テオドールのもふもふがとどまることを知らない。

 このまま進化を続けるとどこまでもふもふになっていくのか心配だ。


「って、そうじゃない」


 我に返って、テオドールに鑑定をかける。

 D級魔物の仮霊魂スピリットだったテオドール。進化した結果『霊魂人形スピリット・ドール』というC級魔物になっていた。


 能力は魔力が一気に伸び、それ以外は据え置き。かなり尖った成長の仕方だ。

 直接戦うことはなく超能力で戦うテオドールなので、方向性としてこれ以上ない成長の仕方だけどね。


 この進化で特筆するべきは、テオドールが新たに得た『体内収納』というスキル。

 これがなかなか衝撃的なスキルだった。


 確認のためにテオドールの背中の綿口を開くも、そこには詰まっているはずの綿が入っていない。

 あるのはただ真っ暗な闇だけ。

 試しに手を入れてみると、明らかにテオドールの大きさを超えるほど中が広い。

 私の腕が肩の付け根くらいまで入っていくけど、それでもまだ壁に手が届かない。


 背中に背負うリュックを近づける。

 テオドールの綿口よりも大きいリュックだ。

 それなのに近づけてから「入れ」って念じると、にゅっと中に吸い込まれていった。

 今度は「リュック出てこい」って念じると、やっぱりにゅっと出てくる。


 これ、魔法鞄だ。


「テオドールがいい子すぎる……」


 魔法鞄と同じ機能のスキルを覚えるなんて。

 普通の魔法鞄だったら未熟な私にはすぎたもの。でも、この形であれば盗まれる心配はない。

 テオドールは転移でいつでも私の腕の中に帰ってくるんだから。


 ついさっき、クーリエの荷物持ち性能が落ちたことでこの先どうしようかちょっと悩んでいたところだ。

 そんなときにこんな「荷物持ちは俺に任せろ」と言わんばかりのどんぴしゃスキル。


 都合が良すぎて、テオドールが私の意を汲んで進化してくれたんじゃないかって。そんなふうに思う。

 いや、もしかしたら本当に私の望みに合わせた進化をしてくれたのかも。

 だって、経験と過程で進化先を増やしたクーリエとミュールの前例だってある。


 思い返せば、ヴィクトの遠距離攻撃だってそうだ。

 もしこれがフットラビット戦のときにあったら私がピンチになる可能性も低くなってたはず。

 あのときのヴィクト、本当に怒っていた。

 騎士でありながら、守るべき私を危険に晒してしまった不甲斐なさ。そんな悔しさが『斬波』スキル獲得の糧になってたのかも。


 まだ妄想の域かもしれないけど、なんとなく私は確信していた。

 人と魔物の絆。あるいはこれこそが召喚魔法の真価だったりするんじゃないかって。

 絆を育むことで、その想いに魔物たちが答えてくれる。

 すごく、素敵な魔法だ。


「よーしよしよし」


 テオドールを撫で回してやると、なんとなく喜んでるような気がする。

 召喚魔法に慣れたおかげか、あるいは魔物たちとの絆が深まったからなのか。

 なんだか、最近ヴィクトたちの考えていることが朧げにわかるようになってきた。


 いつだったか、喫茶ブロカンテのドミニクさんも人形たちの考えていることがわかるって言ってたよね。

 それと同じことが今の私にも起きている。嬉しい。


 テオドールの背中に私とクーリエとミュール、三人分のリュックをしまう。

 全部入ったけど、容量はこれで半分埋まったくらいだろうか。


 ブロカンテにあった魔法鞄ほどの容量はないけど、テオドールは成長するのだからそれに合わせて容量も増えていくだろう。

 とにかく、これで荷物関係の問題は全部解決したと言っていい。

 本当にいい子である。


「よし、今日はこのままダンジョン攻略していくよ!」


 時間を見ると、昼頃だ。まだまだ余裕がある。

 ヴィクトとテオドールはC級に。

 クーリエとミュールはD級へと進化したので、レベリングはひとまずおしまい。

 先に進んでいこう。


 ホブゴブリンなんてもう飽きるほど倒したので、すいすいと11階の奥へと進んでいく。

 そうしてすぐにボス部屋前にたどり着いた。


 順番待ちに加わり、昼食を食べているとすぐに私の番が来る。


 両開きの扉を開けてボス部屋の中に入る。

 現れたボスは、ホブゴブリンの進化先であろうゴブリンたちが四体。

 綺麗に陣形を組んで、こちらを威嚇する。


 鑑定によると、D級魔物の『ゴブリン・メイジ』、『ゴブリン・ソードマン』『ゴブリン・ゴリラ』『ゴブリン・コマンド』の四体だ。

 それぞれ魔法を使うゴブリンと剣士のゴブリン、ムキムキのゴリラっぽいゴブリン、頭の良さそうな指揮官タイプのゴブリン。


 11階層の冒険者は、この王都ダンジョンでこれまでE級までの魔物としか遭遇していないはず。

 そんな中、ボス戦でいきなり四体同時のD級魔物。

 しかも指揮官型の魔物に率いられた巧みな連携をしてくるであろうゴブリン部隊だ。


 さすがにこれは難易度が跳ね上がりすぎている。

 なるほど、確かにこれは『初心者殺し』の名に恥じない凶悪な階層である。


「まぁでも、私たちの敵じゃないよね」


 入念にレベルを上げてきたのだから、負ける要素はない。


「やっちゃえ、ヴィクト!」


 私の声を聞いて、待ってましたと言わんばかりにヴィクトが大剣を横薙ぎに振るう。


 新スキルの斬波だ。

 発生した青白い衝撃波が空を裂きながら敵へ向かって突き進み、ゴブリンたちへ襲いかかる。

 真っ先に反応したのはゴブリン・ゴリラ。軽快な動きで斬撃の範囲から逃げる。

 それから、ゴブリン・ソードマンも一泊遅れてゴブリン・ゴリラに続いた。


 しかし、それまで。

 ゴブリン・メイジとゴブリン・コマンドは回避しようとするが間に合わず、衝撃波に飲み込まれてしまう。

 後に残ったのは胴体が泣き別れした二体のゴブリンの亡骸だ。

 後方支援のゴブリン・メイジと、指揮官のゴブリン・コマンドを失った残りの二体はもはや敵ではない。


 ミュールの闇魔法によって麻痺させられたゴブリン・ゴリラの動きが鈍っている隙を突いて、クーリエがその手に握った棍棒でタコ殴り。


 ゴブリン・ソードマンはテオドールの超能力で宙吊りにされ、壁や床にガンガンと叩きつけられているのでもう長くはないだろう。


「余裕だね」


 圧勝だ。危なげなどかけらもない。

 これがレベリングの成果である。

 やはりレベリングは正義。

 私の方針は間違っていなかったと確信を深める。


 魔物たちと喜びを分かち合っていると、なんと宝箱が現れた。


「宝箱だ!」


 ボス戦で宝箱が現れるのは実は1階のボス戦以来。

 そしてそのときの宝箱からは迷宮器が出てきたのだ。今でも身につけている水色宝石の指輪。

 この宝箱にも迷宮器が入ってるんじゃないか。

 否が応にも、そんな期待をしてしまう。


 私はワクワクしながら、宝箱を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る