ギルドにて
「おい、それは……魔物か?」
「魔法です」
「魔物では……」
「魔法です」
「……そうか。魔物だな?」
「魔法です」
嘘じゃないよ。
そんな感じでダンジョン入り口の衛兵を突破し、明らかに街の人たちの注目を浴びながら足早にギルドへと向かう。
ヴィクトがいるとみんな道を開けてくれるので楽である。
すいすいと歩いていき、すぐにギルドにたどり着いた。
ギルドの中に入ると、やはり集まる視線。
あまりにも見られるのでちょっと不安になるけど、その中にいつものメガネの受付さんがいるのを確認してちょっと安心する。
彼に「こっちに来い」と手招きされたのでついていったら、個室に案内された。
「はあ……少しは考えてください。トラブルになったらどうするつもりですか」
「ごめんなさい」
骨よりはいいでしょ。って考えた結果なんだけど。
なんて言葉は言わない。私は空気が読める女なのだ。
たしかに私にも反省するべき点はあるので、粛々と謝っておく。
それからちゃんと理由を説明して、一応の理解をしてもらった。
「ギルドからフォローはしておきます。次はもう少し考えてください」
「はい、ありがとうございます」
それから、ちょっと申し訳ないけど換金してもらう。
今回の戦果はホブゴブリンの魔石が約四百個と同じ数の角。宝箱から出た細々したもの。
合計して約六千ルタだ。
冒険者儲かりすぎてすごい。
「……相変わらずすごいですね」
「えへへ」
これだけ稼げちゃうと、私が異常だっていうのはさすがに自覚できる。
まず本来はよほど実力がない限り複数人でチームを組んでダンジョンに潜るところ、魔物を仲間にできる私は一人で潜ることができる。
そのため、獲得した戦果は全部一人占め。
戦闘に貢献しない私を抜いて、ヴィクトとテオドールにクーリエとミュール。
四人分の戦果を一人占めだ。今回の稼ぎだって四等分すれば一人千五百ルタほど。それほどめちゃくちゃな額ではない。
加えて、武器や防具の手入れに傷薬などの出費が必要ないことも大きい。
当然ながら剣は使えば刃がこぼれるし、鎧は傷が増えていく。それを都度修理したり新調していくのはかなりの出費になるだろう。
怪我をすれば傷薬が必要だし、場合によっては病院にかかってもっとお金が必要になる。
でも、私にはその出費がない。
魔物たちがいくら怪我をしたり武装が壊れたりしても、それを解決するのが召喚魔法のサポート能力。
『
召喚状態の魔物のダメージを召喚時の状態に戻す魔法だ。
わかりやすく言うと、契約魔物限定の全回復魔法。
倒された魔物はしばらく召喚できなくなるけど、この魔法があるからそもそも倒されることが滅多にない。
そして後ろで応援してるだけの私は攻撃を受ける機会がほとんどない。
そんなわけなので出費とは無縁だ。
最後に、持久力。
普通の人間はダンジョンで戦い続ければ疲労が蓄積したり魔力が尽きたりして途中で中断せざるを得なくなる。
でも、私の魔物たちはみんなアンデッドなので疲労とは無縁。応援してるだけの私は普通の冒険者よりも何倍も疲労が溜まりにくい。
そして召喚魔法はとても燃費がいい。
攻撃のたびに魔力を消費する他の魔法と違って、魔物を召喚したあとは魔物自身が自分の魔力を使って戦う。
召喚した魔物が戦う分には私の魔力消費は必要ない。
『再召喚』には魔力をそれなりに使うけど、それだってそもそも使う機会があまりない。
ダンジョン内で私が魔力を使うタイミングは、基本的に魔物を召喚するときと魔物がダメージを受けたときの『再召喚』のときだけ。
魔力は自然回復するものだから、この程度の消費なら回復が追いついて一生尽きることはない。
召喚魔法の脅威のコスパである。
なので私は、休むことなく活動できて討伐数を異常なほど伸ばせるわけだ。
これだけ材料が揃っていれば、そりゃあ他の冒険者よりも儲かるっていうものです。
すごい。
「あまり調子に乗らないように」
「はい」
釘を刺されてしまった。
調子に乗ってもいいことはないので、肝に銘じておこう。
儲けこそすごい出してるけど、私はF級の駆け出し冒険者。
この世界ではまだまだ下の下の強さでしかないのです。
謙虚堅実にやっていこう。
ふと、部屋の中にノックの音が響く。
「クロードさーん! イネスでーす、入っていいですかー!?」
「大きな声を出さずとも聞こえています。入りなさい」
「はーい!」
ガチャリとドアを開けて部屋に入ってきたのは、長い赤髪をポニーテールにした綺麗な女性だ。
スタイル抜群でちょっと際どい服装をしているけど、ニコニコとした笑顔とポニーテールが元気な印象を与えて妖艶さを中和している。
というかメガネの受付さんの名前クロードって言うんだ。
はじめて知ったよ。
イネスさんはびしっと敬礼して、元気な声でクロードさんに報告する。
「さっきの件について、説明終わりました!」
「そうですか、ご苦労様です。下がっていいですよ」
「わぁ! この子が召喚士の子ですねっ! ぬいぐるみ持っててかわいい〜!」
「むぎゅ」
下がれと言われたイネスさんは一顧だにせず、私に抱きついてきた。でかい胸が顔を圧迫して呼吸ができない。
慌てて腕を叩いたら、すぐに気づいたみたいで解放してくれた。
「ぷはぁ……死ぬかと思った」
「ごめんね〜! ねね、名前なんて言うの?」
「リディです」
「リディちゃん! 私はイネスよ! 学園の子だよね! お貴族様だったりするのかな!? 召喚魔法って建国の英雄のと同じだよね、どんな魔法なの!?」
「え、えっと……」
マシンガンのように語り出すイネスさんに戸惑う。
怒涛というかなんというか、元気すぎる。戸惑っている私を見かねたのか、クロードさんが割り込んできた。
「イネス。彼女が戸惑っています。落ち着きなさい」
「あっと……ごめんなさ〜い」
静かだけど
「では失礼しま〜す……あ、リディちゃんまたねっ!」
「あ、はい。また」
去り際に手を振る彼女に手を振りかえすと、にっこりと嬉しそうに笑って部屋を出ていってしまった。
そこで聞こえてくる、ふかーいため息。
「すみません。イリスは優秀なのですが、元気がありあまっていて」
「いえ、元気がないよりはいいんじゃないでしょうか……」
なんとも変なフォローしかできない。でも、多分イリスさんには私が迷惑をかけてしまったのだと思う。
彼女の言ってた
多分、私が騒がせてしまったことについてだ。
「あの、イリスさんに私がお礼言ってたって伝えておいてもらっていいですか? 多分、迷惑かけちゃいましたよね」
私がそう言うと、クロードさんは頬を緩めて頷いた。
「ええ、伝えておきます。まぁ、職務の範疇なので問題はありませんよ」
「ありがとうございます、クロードさんも。次からは気をつけますね」
「ええ、そうしてください」
改めて頭を下げて感謝を伝えてから、私はギルドを出た。
さて、どうやったら怒られないで済むか考えなきゃね。
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