第95話 アルセルライド

 人影は一体だけど、その後ろに2匹。魔物のような姿をしたものがいた。


 まず姿を現したのは──前にいる一人の人物。


 赤いローブを着て、白いひげを蓄えた老人。木でできた、大きな杖を持っている。

 あれ? こいつ、魔王軍との戦いで会ったことあるぞ。


「貴様、アルセルライドじゃな?」


「おお、ネフィリムか。偶然じゃ」


 ああ、思い出した。魔王軍で、闇神殿を支配している人だっけ。こいつも、強大な魔力を持っていて。強力な魔法を使って来るんだっけ。



「よくぞここまで来た。その強さ、褒めて遣わすぞ」


「お礼はいいです。戦うんですよね? 何か言いたいことはありますか?」


「フン、話が早くて助かる。こいつらと私。果たして倒せるかな? ネフィリム様とて今は敵同士、手加減はぜぬぞ」



 当然なのじゃ。手加減など必要なかろう。正々堂々と、貴様を倒す」


「ネフィリム様なら、そう返してくれると信じておりました。今度は敵同士、全力で戦いましょう」


 そして、アルセルライドは思いっ切り杖を振り上げる。杖が強く光り出したと思うと、アルセルライドの後方の光の柱が弱くなり、魔物の姿が、見え始める。こいつらとも、戦わないといけないんだな。


「魔力からして、ラスボスにふさわしい強さのようですね」



「まあ、どんな敵が来ようと絶対に勝利するのじゃ」


 確かに、今まででもトップクラスに強そうな気配はしている。でも、俺たちは弱音は吐かない。


 目の前に現れた敵は、2体。


 1体目は──黒く光る、巨大なドラゴン。


「サーチ魔法で調べます。えーと、ブラックドラゴンっていうんですね」


「ドラゴン」か、向こうの世界では、最上級の魔物と恐れられていたんだっけ。しかも、

 普通のドラゴンよりも強化されているのがわかる。



 手を焼きそうな敵だ。

 けど、倒したこと自体はあるし問題はないだろう。ドラゴンとは何度も戦っているし、パワー方が強くなっているといっても戦い方は変わらないはず。弱点。攻略法は理解している。絶対に勝つ。



 もう1体。


 灰色の、機械で出来た四足歩行の肉体。


 赤く光る眼がこっちを向けて睨んでいる。そして、大きく口を上げ──こっちに向かって叫んだ。なんというか、見たことがない、どんな動物をモチーフにしているか


「えーと、これはデスヒプノスという魔物です」

 デスビスノス──あ、なんか聞いたことがあるな。魔王軍の幹部が開発した、強力な魔物だと。

 俺たちとの決戦の時は試作段階だと聞いて、不完全だったため参戦できなかったと聞いたが、完成していたのか……。そして、目が合うなりこっちを睨みつけてきて威嚇のためか、大声で叫んできた。


「ギィィィィィィィィィィエェェェェェェェェェェェィィィィ!!」



 まるで、黒板をかきむしった時のような耳をふさぎたくなるような音。不快な音という言葉がこれでもかというくらい似合う。


 こいつも、かなり強力なはず。秘めている魔力は「ブラックドラゴン」よりも強力だと思う。おまけにどんな戦い方をしてくるかわからない。牽制気味に戦いながら、こいつの癖を見抜いて、しっかりと対抗していこう。


 変な力を、持ってないといいが──。


 そして、アルセルライド、ブラックドラゴン、デスヒプノスがそろってこっちを向く。


 一番前にアルセルライド。後ろにブラックドラゴンとデスヒプノスが控えているかのように存在している。しっかりと敵意を持っていて、これから戦いが始まるのだと、すぐに理解した。


「さあ、最後の戦いの始まりだ」


「了解です。必ず勝って帰りましょう」


「絶対に、負けないのじゃ!」


 俺と璃緒が、一気に前線に向かっていく。何が待っているかわからないが、何もしなければ好き放題やられるだけ。俺たちの動きに応えるように、後ろの魔物2体が動き出す。


 デスヒプノスがとびかかって、ブラックドラゴンが空から飛んでこっちに襲い掛かかってきた。


 俺たちは三方向バラバラに飛んで攻撃をかわす。一緒に固まるより、そっちの方が狙いをつかられにくいからだ。


 後方に下がったネフィリムが、前に向かって杖を出す。強い魔力の気配、明らかに一撃をお見舞いしようとしている。


「吹き飛ばすのじゃ!」


 そしてデスヒプノスとブラックドラゴンそれぞれに1つずつ砲弾状の攻撃を放ち、ドォォォォォォォォォォォォォォォンという大きな音とともに大爆発が起こる。



 ブラックドラゴンは攻撃が直撃したようで、吹き飛ぶように落下。地面に激突するようにして直撃。


 デスヒプノスは攻撃が直撃する直前に、障壁を張る。透き通るような、薄い水色。しかしネフィリムの攻撃はそんな障壁をお構いなしに一瞬で破壊。



 ガッシャァァァァァァァァァァンという音がこの場一帯に通る。


「無課金でも、攻撃が通るんだな」


 見た感じ、倒しきれてはいないもののしっかりとダメージを与えているのがわかる。

 さっきみたいに、明らかに効きにくくなってるわけではなさそう。


「そんなことする必要はない。しなくても、貴様たちを倒すには十分だからな」


「随分な自信だな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る