第93話 これが、作戦
「多分そうなのじゃ」
そして、魔物たちは次々と逃げようとしていた人たちをわし掴みにして持ち上げた。
すると、魔物たちの体の中から太い縄のようなものがあらわれ、捕らえた配信者たちを自身の身体に巻き付けるよう接着する。
「人質にしたっていう事か──」
「恐らくそうなのじゃ。こっちが手を出そうものなら、彼らがダメージを受けるとでも言いたげなのじゃ」
悲鳴を上げもがき苦しんで助けを求めているが、もがいても拘束は全くほどけないし、俺達も容易に近づけない。
まあ、今回はそんなことしても戦術は変わらないんだけど。
別に、魔物たちに直接殴り掛かるわけじゃないし。
人質がいようとやることはそこまで変わらない。自分たちがしようとしていた戦術をとって、倒すだけ。
まるでプロレスリングみたいに、囲まれてしまった。もう逃げることはできない
戦うしかないのだ。
取り合えず、背中合わせになろう。
「はい」
「わかったのじゃ」
その言葉通り、俺たちは背後から攻撃されないように互いに背中合わせになりながら攻撃に対応していく。
魔物たちが、俺達に気づいたのかそれぞれこっちに向かってきた。こっちの作戦は、まずこの攻撃を受けることから始まる。強力な攻撃を受け流すようにしてから──反撃のチャンスをうかがっていこう。
攻撃を受けて、上手くカウンターして、受けて。
何度も攻撃を受けていくうちに、対面していた『グバゼバ』の攻撃が単調になっていく。
何度殴り掛かっても、ダメージを与えられず焦りの感情が出てきたのだろう。単調になり、手数が増える。力任せの攻撃が徐々に増えていき──少しずつではあるがスキが出来て言っているのがわかる。
こっちもそろそろ反撃に出たい気持ちはあるが、まだ我慢。今回の作戦は、決まればこっちが戦いを有利に進めることができるがそれなりに難易度が高い。それに、手口がばれて警戒されると成功しにくくなってしまう。
警戒されないように、あくまで慎重に攻撃を受け──チャンスを探っていく。
攻撃が徐々に大降りになっていき、こっちが数メートルほど後方に離れると、それに食いつくように『グバゼバ』がこっちへと向かってきた。
しかもさっきまでとは違い、飛びつくような形。
こんな感じの対面をずっと待っていた。こいつがリスクをかけてこっちへ攻め込んでくるところを。
これなら、十分に行ける。前がかりになって来た。ここまでのチャンスはそうそうない。こっちも仕掛けに行く。
体制を低くして、殴り掛かってきた攻撃をかわす。前進する『グバゼバ』にたいして、入れ替わるような形になって俺は『グバゼバ』の後方へ。よし、ここまでは順調。こっちの作戦通り、このままいけば──こっちの作戦は成功。
『グバゼバ』もそれに気づいたのかすぐに振り向こうとするが、そうはさせない。というか、これをずっと待っていた。振り向こうとして、足を動かした次の瞬間俺は飛び上がって、膝裏の前へと移動。
そして、魔力を剣に全力で込めて膝裏めがけて切りかかる。横一線に薙ぎ払う攻撃。しかし、この形なら俺が切り刻む威力だけでなく、こっちに向かってくる威力も合わせられるのでより強い攻撃が通る。
カウンターのような形。これなら、相手がこっちに向かってくる力を利用する形だ。
自分の威力だけなら心もとなかったけど、こっちに向かってくる威力を組み合わせれば──狙い通りに行けそう。
そして、『グバゼバ』のひざの裏を思いっきり切り刻む。体のつくりは人間とそこまで変わってないはず。あまりに硬い皮膚。ミシミシと悲鳴のように音が鳴るが、それを無視して、少しずつ体を切っていき──やがてブツッと何かが引き裂かれたような音が聞こえた。
良し、これで作戦は成功。いったん飛び上がって距離を取って離れた。そして、体のバランスを失って倒れこむ『グバゼバ』。
そう、俺が切り刻んだのは──何を隠そう『グバゼバ』のアキレス腱を切ったのだ。これで、『グバゼバ』はもう立ち上がることができない
何とか抵抗しようともがいて、懸命に手足をばたつかせているのはわかる。どうすることもできない。まあ、腱を切断された以上体の構造の問題だからどうすることもできないのだが。そして、こいつの肉体は地面に向けて落下。しかし、それだけでは終わらせない。ここは俺たちが反撃できる。数少ないチャンスだからだ。頭上に飛び上がって、下に向かって叩きつけるように剣を振る。これで『グバゼバ』の落下速度は倍近くになった。そして、これで最後。
腕の方に飛び上がって、受け身をとれないよう手足の動きを阻害。これで、肉体が地面に直撃した時のダメージが魔物に行く。これなら、ダメージを与えられるはず。
魔物が軽減しているのは、あくまで課金していない武器のダメージ。自分自身の肉体の衝撃が軽減されず、そのままダメージとなるからだ。
そう。確かに俺たちの攻撃はかなり通りにくい。でも、すべての攻撃が通らない訳じゃない。
そんな中で俺たちが目をつけたのは、自分自分の力で倒れてもらうこと。そして、自分自身の重みで身体を強打させダメージを与える。
多少賭けだったけど、何とか狙い通りに事を運ぶことができた。
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