第92話 無課金バトル


「そうなんだ」


 でも、あらかじめ調べるだけでもすごいな。俺はそんなことしないで、特に調べたりしないままダンジョンに潜っているし。

 会ったことない敵にあって、どんな力を持っているかを戦いながら探るのだって楽しみの一つだし。


「まあ、強敵とだけは覚えていてください。見ていればわかるんですけど」


「まあ、強そうだね」


 他にも、赤い鎧を着ている魔物。白を基調とした甲冑を来た魔物。計3体ほど。

 そのどれもが、5~6人でかかってきている配信者たちを圧倒していた。それも相当な実力を持っているというのがわかる。


「心してかからないとダメですね」


「ああ。でも絶対に勝とうね」


 そして、いつ戦いになっても大丈夫なように準備。


 準備が終わった……次の瞬間だった。

 圧倒何と配信者が逃げ出してしまった。そして、戦っている人がいなくなかったせいか魔物たちの視線がこっちに向く。明らかに、こっちに敵意を向けているのがわかる。3人、互いに視線を交える。2人とも、俺と同じ様に気配を感じ取っていたようだ。


「どうやら、戦いが始まるみたいですね」



「最初からこうなるのはわかっていたのじゃ。準備はすでにできているのじゃ」


「じゃあ──行こうか」


 選択肢は、すでに決まっていた。戦う準備をして、魔物たちに立ち向かっていく。



 強力そうな魔物たちが、いっせいにこっちに向かってきた。俺達は3人見合ってコクリとうなづいて、一丸となって向かっていく。戦い方は、今までと同じ。3人のコンビネーションで崩して勝利する。


 まずは、ネフィリムが遠くから攻撃を放つ。光線状の攻撃を『グバゼバ』に向けて放ち、直撃。大きな爆発音を上げ、煙が舞い上がった状態で突っ込んでいく。


 大きく攻撃を放ち、璃緒と同じタイミングで放つが──結果は予想通りだった。


「ほとんど通りませんね」


「予想通りだな」


 そういう、課金アイテム出ないとほとんど通らない設定なのだろう。

 やはり、通常アイテムだと威力が出ない。


「なんていうか、勝ちたかったら課金しろといわんばかりですよね」


「わかるのじゃ。そう言われてる気がしてるのじゃ」


「まあ、ここまで露骨だと逆に課金したくなくなるけどな」


「当然ですよ」


 2人とも、絶対に課金しないという強い意思を感じる。まあ、俺もそうなんだけど。

 だから当然、答えは決まっていた。


「このまま、課金せずに戦う。いいな?」


「わかりました」


「当然なのじゃ!」


 そう言って、3人そろってコクリとうなづく。

 こんな感じで「課金しろ」と圧を掛けられると、逆にしたくなくなる。俺だけじゃなくて、2人も同じ考えだな。別に、こんなことは今回に限ったことではない。


 理不尽な思いなんて、今までいくらでもしてきた。それでも、俺達は勝ってきた。今度も、同じように戦うだけ。こんな状態になることは想定していたし、その時にどんな戦術をとるか、どんな戦い方が理想的かは議論していた。



 後は、戦いの流れの中でそれができるかどうか。


 そして、再び戦いへ。


 向かってくる敵。確かに強いけど、このレベルの強さの敵はいくらでも経験してきた。

 攻撃を耐えるだけなら、十分にできる。それはネフィリムと璃緒だって一緒。


 攻撃は通らないが、こっちもしっかり攻撃を防いで対策はしている。

 互いに攻撃をしつつ、一進一退の攻防が続く。


 鋼鉄の塊のように硬い敵を、何度も切り付けていく。

 全くダメージを与えられないわけではない。


「これならいけそうだ」


「はい。手ごわいですが、頑張りましょう」


 少しずつだが、相手がダメージを与えていっているのがわかる。このまま少しずつだけど、押し込んでいけば勝てそうだ。


 もっとも、相手だって奥の手は用意しているだろうが。

 相手だって、何かしてくるはずだ。有利に戦いながら、油断はせず相手の出方に警戒をうかがっていく。


 そして、その時は訪れた。

『グバゼバ』は戦いながら大きな咆哮を上げながら一歩下がる。マズイ──何かくる。そう思い守りを意識しながら一歩下がると、この場が一瞬光り出した。


 その瞬間だけ視界が真っ白になり、再び視界が戻る。


 戻った視界、そこにはさっきまでにはなかった光景があった。

 何と、逃げ出したはずの配信者たちがここに戻ってきたのだ。


「おい待てよ、逃げられないんだけどこれ。ってこの場所に戻ってるじゃん」


「ちょっと、助けてくれよ。なんだよこれ」


 ことばからして、逃げようとしても逃げることができなかった。どこかに閉じられた後、ここに戻されたのだろうか。



 配信者たちはみんな、ポケットから四角い装置を取り出して、その中央にあるボタンを懸命に押している。しかし、何も起こらない。

 この場から、緊急用の脱出スイッチを使って脱出をしようとしているのだろう。


 こういったダンジョンでは実は、緊急用でもしもの時のために、ダンジョンから逃げる用のボタンがある。俺達も所持しているし、彼らが押しているそれがそうだ。

 配信者たちはみんな、急いでそれを押すがいつものように姿が消えることはせず、慌てるように連打しても全く変わらない。


「これ、誰かの罠ですね」


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