第91話 そして、戦闘の場へ

 ちょっと、懐かしさを感じる。今はあまりいなくなったよな、こんな癖のある動画を加工したMADを見て、笑ったりするの。



 そして、再び活舌が悪い言葉を発してきた。


 ナズェミテルンディス!!


 また、何を言っているかわからないような言葉。そっちの方を見てみると、赤を基調としたかっこいい服の男の仮面刃の人が現れた。


 戦隊ヒーローのような外見。


「確か、『何で逃げるんです?』って意味だったと思います」


「ああ、そんな事言ってたな」


 こいつについて行けばいいという事か?

 他に手がかりもないし、それしか方法はなさそうだ。



「何か敵がいて、そっちに逃げていったから叫んだってことなのかな?」

「確か、この原作のストーリーでそんなシーンがあったと思います。それを再現しているんでしょうかね??」


「まあ、説明不足で何のシーンかもわからないけど、それもクソダンジョンあるあるだし」


「どちらにしろ、他に手がかりはないのじゃ。行く以外に道はないぞい」


 そうだ。ネフィリムの言うとおりだ。何が待っているかわからないが。それしか手掛かりがない。例え罠であっても進んでいくしかない。そうすれば、何かわかるかもしれない。


 行く以外に、選択肢はなかった。

 とのことで俺たちはこっちを歩いて行く。しばらく歩いて、鬱蒼とした森から一転、神殿のような場所へ。


 階段を上がってから神秘的な模様のある門を潜り抜けると、大きな橋。その先には前方には岩に囲まれた場所。

 前方はまるでプロレスリングみたいに何もない。地面でできた場所。


 橋を渡った先に、何かがあるというのか──。


「わたりましょう。それしか道はないです」


「そうなのじゃ」



 そうだ。いかにもあそこに行ってくださいと言わんばかりの場所。行くしかなさそう。

 周囲に視線を配り警戒しながら橋を渡っていく。ゆっくり橋を渡りきった後、橋が蒸発するように消滅してしまった。


 これで、俺達はここから出ることは出来なくなった。こういう仕掛けだったのか。


「敵が来たら、戦う以外に道はないですね」


「はい。でも大丈夫です。力を合わせて戦えばきっと勝てます」


 2人の言葉に、コクリとうなづく。そうだ。今までだってずっとそうしてきた。

 大丈夫。3人で戦えば。


 今まで通り何も怖くない。


 しかし、これからどうなるのか。普通のダンジョンなら、こういうことがあると説明があったり、何が起こるかが比較的明確なのだが──ここはクソダンジョンで定評の場所。そういう丁寧な配慮は望むべきもない。璃緒は原作を知っているようだし、璃緒の言葉を聞きながら進んでいくしかない。




 それから、周囲が光って視界が悪くなる。すぐに周囲が全く見えなくなった。これから、何かが始まるのだろうか。


 コメントを見ると、その答えが書いてあった。


“他の配信者で見たんだけどさ、神殿ここまでは一緒にいた人しかいなくて、この場面で他の配信者と出くわすんだって”

“マジか、協力プレイもできるってことか”


 そうなのか。他の人──どんなふうに戦っているか気になるしここはしっかりと、いておこう。


 数十秒もすると、再び視界が晴れた。景色が見え始める。場所自体は──元居た場所。しかしその光景は全く違うものだった。


 戦う場では他の配信者らしき人があらわれていた。数組ほどかな。剣や槍、多分俺たちと同じ無課金のそして彼らは魔物たちと戦っている。他はすでに戦闘が起きてる。

 しかし、その姿は散々なものだった。


「つえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


「や、や、や、やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!」



 襲い掛かってくる魔物に必死の形相で逃げまどっている。

 実力が違いすぎているのか、一方的にいたぶっているに近い。ほとんど守りしかしていない感じ。時折反撃しようとしても、課金アイテム出ないのか、ろくに攻撃が通らない。


 魔物の肉体に当たっても、「ゴン」と鈍い音があるだけで傷一つつけられていない。このまま戦っても結果は見えている。


「これ、応援に行った方がいいよね」


「それもよいが、せっかく戦っているのじゃし、敵の動きを見るのもやるべきことも一つなのじゃ。彼らが戦っているうちは、変にいかない方がいいと思うのじゃ」


 そうだな。彼らだってまだ戦いを続けている。それを邪魔するのはあまり好きじゃない。連携の経験がない俺達ではそこに割って入っても同士打ちになってしまうリスクがある。

 それに、魔物たちの動きや戦い方を戦う前に知っておくことも大事だ。


 とのことでここは静観。戦いの様子をしっかりと目に焼き付ける。

 まずは、戦っている魔物の姿。


 禍々しい姿をしていて、筋肉質。豪華そうな装飾を身にまとい、白を基調とした肉体。肩くらいまでかかった長い髪。その肉体からあふれ出る魔力は膨大なものだ。


 外観は何というか、クワガタみたいな角をしているな。独特な見た目の異様ともいえる魔物。



「確か、クワガタをモチーフにした魔物なんです。仮面刃シリーズの、ラスボスの1体でしたね。『グバゼバ』っていうんでしたっけ」


「そうなんだ。俺は見てないからわからないけど」


「まあ、私もよくは知らないです。ここに来る前に、軽くネットで調べただけなんで」

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