第86話 最高の時間


“さすがはからすみだな。璃緒と一緒でストイックというか、高ランク配信者って感じだな”

“これは高いプロ意識。いいお手本になりそう”

“配信者あるあるだよね。他の配信者のプレイをお手本にする”


 他にも、褒めるようなコメントが多数。やっぱり、ここまで真正面から褒められるってのは慣れないし、反応に困ってしまう。


「からすみさん、そういうストイックなところ──私も素敵だと思います。しっかりと自信をもって大丈夫ですからね」


「ありがとう。誉め言葉として受け取っておくでも、璃緒ほどじゃないと思うよ」


 俺の心を見透かしたように、璃緒が言った。璃緒も、加奈の次くらいに俺のことを理解してくれていると思う。そして、笑顔を作って手を振って視聴者たちに言葉を返した。


「視聴者の人も。そう言ってくれてありがとうございます。もっと、いい動画を作れるよう精進します」


“恋も配信も頑張れよ”

“努力するのもいいけど、加奈ちゃんのことも見てあげてね。悲しませたら大炎上なんだからねっ!!”

“お前は、もうちょっと異性に好かれる方法を学んだ方がいいぞ”


 こんな感じのコメントに、思わず苦笑いしてしまう。まあ、さっきまでみたいに称賛だけされるよりは俺らしいと思う。それから、加奈は上目遣いで顔をほんのりと顔を赤くして言う。


「私も……澄人君の事、すごいと思ってるよ」


「あ、ありがと」


 そう言って、加奈の髪を優しく撫でた。加奈は、優しい笑みを浮かべていてとても嬉しそう。

 こっちまで、嬉しい気持ちになる。


 そんな俺を──他の3人はジト目で見ていた。


「からすみさん、そういうとこですよ」



「そうなのじゃ。加奈殿が、気の毒なのじゃ! これで付き合ってないとか、生殺しもいいとこなのじゃ!!」


 コメントも、そんな感じだ。


“どう考えても恋人同士です。本当にありがとうございました”

“からすみ、そういうとこだぞ!”“

“むしろわざとやってる説”


「わかったよ、申し訳なかったよ」


 どうせ俺に、異性とも交際経験はないし、こんな感じになりますよ。これからは、加奈の気持ちも大切にしていこう。十分答えられるか、わからないけど。


「のろけ話はここまでにして、次ネフィリムはん行こ」


 ろこが半ばあきれ顔で言う。そうだ、俺だけじゃない。みんなの質問に答えなきゃいけないんだ。

 ネフィリムがご機嫌そうな表情になり、おほんと咳をして答える。


「わらわは──いろいろなところに行ってるのじゃ。渋谷に原宿とかにも行ったのじゃ」


“すげぇ陽キャじゃんネフィリム”

“確かに、その私服もかっこよくてすごいしな。気を使ってるんだな”

“ある意味対極的な2人だな。ピッタリの相性だと思うよ”


「なんか、リア充やなネフィリムはん。澄人はんとは、正反対なんやなぁ」


「色々な流行を知っておくのも大切な事なのじゃ。おしゃれなファッションを着たり、雰囲気のいいカフェに入ってケーキを食べたり。楽しく過ごしているのじゃ」


「いいですね。今度、一緒にお茶でもどうですか?」



 確かに、ネフィリムと璃緒ならコンビになりそうだ。


「いいのじゃ。今度は、あんみつチョコレートフラペチーノが食べたいのじゃ」


「いいですね。今度食べに行きましょう。SNS投稿用に撮りたいと思ってたんです」


 盛り上がる2人。まあ、この世界を満喫しているのは素晴らしいことだ。

 それからも質問は続く。


“キノコとたけのこ、どっちがいいですか?”


「キノコに決まっとるやろ!」


「えぇぇぇぇっ、たけのこの方がいいよね澄人君」


「キノコなのじゃ!!」



 宗教戦争ともいえる内容にヒートアップ。キノコ派とたけのこ派に分かれて、言い合わそう。


“お好み焼きは広島ですか? 大阪ですか?”


“大阪生まれのうちにそれを聞くかぁぁぁぁっ!!”

“ごめん……私広島はなんだ”

“私も、以前広島に観光しに来て食べて──はまっちやいました”


 軽く言い争いになってしまった。最初荒れるかなって思ったけど、これは荒れるよな。特にろこは、大阪生まれみたいだし。


 政治宗教野球きのこたけのこお好み焼き。話題にすると荒れる5大要素だって聞いたことがあるな。



 それから“恋バナの話教えて欲しい”とか困るような質問もあった。俺は──恋バナとか

 全く縁のない人生を送ってきたし加奈もそういう情報もないし。

 他の3人は──正直分からない。3人とも、かわいくて魅力ある人。周囲から言い寄られるだろうし、交際相手がいたとしても全くおかしくはない。


 しかし、配信者はアイドルに近くそういった行為はご法度に近い。何度も炎上したことだって知っているし、仮にしていなかったとしてもアンチに悪い噂を流される可能性が高く地雷ともいえる話題だ。



「すいません、そういう話題は──」


 璃緒が何とかフォロー。そんな話題を避けて、今度はネフィリムが質問を選ぶ。時間的に、これが最後になりそうだ。

 最後だけにいい質問を選びたい。


「これにするのじゃ」


 ネフィリムが指定した質問。確かに最後にはふさわしそう。


“これから、やっぱりみんな離れ離れになっちゃうの?”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る