第85話 超ストイック


「加奈も、本当にありがとう。そこまで言ってくれたのは、本当にうれしいよ」


“璃緒達なら普通にありそう”

“もう付き合ってるだろ加奈と澄人”

“↑ネフィリムがそっち見てるぞ”

“ネフィリム、おまえももっと積極的にいかないとからすみ君取られちゃうよ”


 コメントは──案の定という感じだ。


 コメントは──案の定という感じだ。こういった、恋愛沙汰の話題は初めてだからちょっと戸惑ってしまう。

 何か、俺と加奈の話題になっちゃったな。


「まあ、うちらは璃緒たちには手出しせぇへん。安心してもいいで」


「ありがとうございます。一応言いますが、勝負ならいつでも受けますからね。返り討ちにしちゃいますけど」


 そうだった。話がそれてしまった。

 自信を持った表情で、璃緒が言う。確かに璃緒の実力なら加奈とろこから奇襲を受けても十分返り討ちに出来るだろう。



「じゃあ、次の質問に行きましょうか」


「そ、そうだね」


 璃緒が苦笑いして、上手く話題を変えてくれた。こういう変な話題になったときの、フォローとか進行の仕方とか慣れているというのがわかる。璃緒がいて良かった。

 そして俺達は再びコメントから質問を漁る。


「次は、この質問がいいのじゃ」


 ネフィリムが、今度は指差した。


“璃緒さんに質問です。プライベートではどんなセレブな暮らしをしているのですか?”

“おおっ、いいねぇ。璃緒ちゃんほどのスターなら、いい暮らしとかしてそう”

“豪華な食事の内容とか、教えてくれると嬉しいな”


「いい質問だと思うのじゃ。聞いてみたいのじゃ」


「それもおもろそうやな」


「璃緒さんなら、色々面白いエピソードとか話せそうですよね」


 加奈は目をキラキラさせながら願望のような目つきを璃緒に向ける。


「いいですけど……そうですねぇ」


 璃緒は人差し指を唇に当て、考えた後答えを出した。この話題、俺もちょっと気になる。ちなみに、苦笑いしている。



「そこまで優雅な暮らしなんてしてないですよ。確かに人気歌手とかと一緒にいるときは高い店に行ったりしてますが、それはあくまで相手がそういう店でないと周囲から騒がれて大変だからであって、一人の時はサングラスをかけたりして安いカフェに行ったり、自炊して質素な食事をする時だってありますよ」


「そうなんだ」


“意外だな……大スターの璃緒なんだから、もっといい暮らししてると思ってたのに”

“でも、たまにSNSでスラバのフラペチーノとか高そうなケーキとか上げてますよね”

“あああった。結構高いよねえあのカフェ”


「ああ。あれ、ネットの話題用に挙げてるんです。ちなみに、一緒にカフェに行ったときは相手の頼んだケーキを互いに撮って互いに別の日にあげたりしてるんです。もちろん、配置を角度を変えてばれないようにしてます。ちなみに、昨日の食事は自炊です。ほうれん草のおひたしに焼魚でした」


“そうなんだ。意外と質素倹約なんだね。稼いでるんだから、もっと豪勢な生活をしてもおかしくはないのに”

“だよね。都心の夜景が見えるレストランで、高いステーキとか食べてる感じ”



「そんなことないですよ収入といっても、一時的に入っているだけですよ。これから先、ずっと配信者を続けられるとは限らないですし。そうなったときのために勉強とかだってしています。そんなセレブ生活はあこがれますけど、そういう身分ではないと私は思います。家に帰ったら、他に配信動画を見て参考にしたり、トークの練習、他のメンバーを気遣ったり、基礎体力を作るために運動したり、怠けている暇は、あまりないんですよね」


「流石は璃緒はんやなぁ」


素晴らしいとしか言いようがない。これがスターの配信に取り組む姿勢か。今の事だけじゃなくて、将来のこともしっかりと考えているのか。やっぱり、璃緒には見習うべきところがいっぱいある。コメントからも、賛美の声が相次いだ


“すげぇ、人気配信者ってこんなに苦労してるんだ”

“璃緒さん、みんなの模範って感じだな”

“なんていうか、これぞスターって感じ。ストイックで、人間性も良くて。みんなのお手本だよね”


そのコメントに、俺の同意だ。


「なんかここまでほめられると恥ずかしいですよ~~次の質問行きましょ」


「そうやな」


それから、次の質問。


“かなろこさんに質問です。奇襲相手を選ぶ時の基準はありますか?”



「やっぱり、周囲に暴力を振るったり、理不尽な悪さをしてる奴やな」


「まあ、そういう人じゃないとただの弱いものに待っちゃうよね」


考えたら、2人の配信スタイルって相手を考えたり、行いを考えたりしないと逆に炎上しちゃうよね。その匙加減を考えるのが、2人は大変なように思う。


“からすみさん。ネフィリムさんとのプライベートでのやり取りについて教えていただけますか?”


その言葉に、俺は思わず苦笑い。だって──。


「そういえば2人って、プライベートでは一緒じゃないんですよね」


「そうなのじゃ。澄人は部屋にいることが多くてつまらないのじゃ。わらわはこの街の色々なところを歩いたり、美味しいものを食べたりするのがスキなのじゃ」


プライベート、家にいるのが好きな俺と活動的でいつも外でこの世界を楽しんでいるネフィリム。行動原理が違うので連絡を取りながらそれぞれ過ごしたいように過ごしていたのだ。


“じゃあ、個別のプライベートではどんな感じなんですか?”


個別か。少し考えて──答えを出す。


「俺はまあ──家の部屋で動画を見ていたりかな。面白い動画とか、強い魔物を狩って他の人の配信動画を見て参考にしたりしてる」


「澄人君、まじめで熱心なんだね」

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