第84話 加奈の気持ち


 そして俺たちは全員、コメントに目を通す。何か、どれもネタ目的とか加奈や璃緒に見せられないような質問が続くなぁ。4Pとかハーレムとか。そんな中、璃緒が俺の肩を叩いてきた。


「ちょっと待ってください。私のコメントから面白そうな質問があります。まずはこれにしましょう」


 そう言って、璃緒は自分のスマホを手に取り、一つのコメントを指さした。


 うん、確かに、この質問は面白そうだ。


“かなろこの2人に質問です。今はからすみさんやろいちゃんと仲がいいですが、将来からすみさんや璃緒ちゃんのパーティーに奇襲とかするんですか?”


「まずはかなロコさんにです。ずばり、どうなんですかねぇ!」


“まあ、仲がいいししないとは思うけどさ、配信者同士ライバルって関係でもあるし”


 璃緒が自信たっぷりの笑顔で2人に近づいた。

 いきなり面白そうな質問だ。まあ、配信者同士って仲良くても真剣勝負の時はしっかり戦うっていう意識が強いからな。


「し、しないよ~~澄人君にそんなことするわけないじゃん」


 加奈が慌てふためき、あわあわと手を振る。まあ、加奈はしないだろうな。こんな俺でも、大切に思ってくれているのがわかるし、加奈のとろこのレベルなら、十分反撃できる。すると璃緒は自信たっぷりの表情てろこを指差す。


「じゃあ、私たちはどうです? いいですよ。仲良くても、そういう時はきっちり戦いますから。2人の戦いのパターンは覚えてますから、絶対返り討ちにしますけど」



「覚えてるんか?」


「はい。そこから対策も、しっかり出来ています」


 確かに、厨パ狩りという事は璃緒たちもターゲットになる可能性だって十分ある。

 当然、負けたりするとイメージダウンになるから対策していたってことか。負けるつもりはないと言わんばかりの、自信たっぷりの態度だ。


 そんな璃緒に──ろこが苦笑いで両手を頭の後ろで組んで答える。


「せえへんせえへん。ネフィリムは弱点がないし、奇襲できそうな隙もあらへん」


「誉め言葉、ありがとうございます」


「でも、わらわたちだって、奇襲は大歓迎なのじゃ。いつっでも相手をするぞい」


「それもせへんよ。澄人は加奈の幼馴染で許嫁ときた。加奈がそれをする姿が、うちは想像できへんしな」


「おい!」


「ちょっとろこちゃん。許嫁なんて言ってないよ!」


 加奈が顔を真っ赤にして反論する。からかってるんだろうけど視聴者がいる前で言われると後々面倒なんだよな。こっちのコメントも、大変なことになりそう。


 そんなことを考えていると。ネフィリムが俺の前に立つ。顔を膨らませて、不機嫌そうな表情をしている。腰に手を当て、吐息が当たるくらい顔を近づけてくる。




「わらわというものがありながら、このようなものにうつつを抜かすとは」


「まて、俺はお前の彼氏になった覚えはないぞ」」


 不満そうな表情から一転、悲しそうな表情になり、涙目になっているネフィリム。何でこうなるんだ? 予想外の反応に、戸惑ってしまう。しかも本題と反れてしまってる。ちなみにコメントは──大盛り上がり。


“修羅場修羅場”

“この後→中に誰もいませんよ”

“からすみ、いくら成り上がったからって浮気はだめだぞ。一人に汁”

“ま、からすみも男やったってことやな”

“デートのおすすめスポットとか教えてあげよか? からすみだとなんも考えずにマックとか行って破局とかありそうだし”

“ありそうありそう”

“からすみはどっちがいいの? 加奈ちゃんはかわいらしさと幼そうな顔つきがあって、2人だとかわいらしいカップルに見える。ネフィリムはスタイルが良くて、キレイなお姉さんって感じ。からすみと一緒にいたら──ちょっとミスマッチかも”

“わかる。地味なルックスの男と、絶世の美女。ラブコメ小説でありそう”


 地味で悪かったな。まあ、もし──だけどネフィリムと付き合うことになたら浮いちゃうことだってあり得る。だって、スタイルいいしきれいだし、絶世の美女って感じだもん。俺には、合わなそうかな。


 それから、璃緒も真剣な表情になって俺を指さしてきた。


「からすみさん、この世界ではハーレムは認められないんです。ちゃんとどっちを愛するのか決めてください」


「待て、なんか話変わってるだろ」



「まあ、おもろいし視聴者数延びてるからいいんでないん?」


 確かに、ろこの言葉通りコメントは盛り上がってきてるし、視聴者も伸びている。途中で視聴をやめる人もいつもより少ない。


 いつもとは違う雰囲気だけど、みんなが楽しんでくれるならいいか。


「まあ、加奈の魅力があれば澄人を振り向かせるなんて簡単やで。こんな陰キャに片足突っ込んだような男よりいい男が加奈にはいると思うで。応援しとるからな!!」



「そんなことないもん、澄人君はいい人だもん。私にとっては、一番いい人が澄人君なの」


 加奈が、あわあわと手を振って必死な口調でフォローしてくれた。そういう、いつも俺のことを考えてくれるところは、本当にうれしい。

 でもそれはさすがに言い過ぎなんじゃないかな。

 俺だって、この歳まで生きていれば自分の立ち位置だって知ってる。


 そこまで、異性に好かれるような人間ではないという事も。俺より格好良くて、異性の扱い方が優れている人なんていくらでもいることも。


 それでも、こんな俺にそこまで言ってくれてるというのはとても嬉しい。

 優しく頭を撫でる。

 加奈はうれしそうににへらと笑みを浮かべた。

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