第72話 ろこさんは、これなら


 ろこさんが再び顔を上げて視線が合う。悲しそうな表情をしている。

 そこまで考えこんでたんだ……これはちょっと深刻かな。

 加奈さんのことを、よく考えているんだ。


 普段は明るくて、ムードメーカーみたいな感じの雰囲気だったんだけど、本当はネガティブなところもあって、加奈さんのことをとても考えている。


 だから、ろこさんへの声掛けも一工夫必要。ちょっと考えないと──どうすればいいか考えていると、話しかけたのはネフィリムさんだった。コクリとうなづいて、優しい笑みを浮かべる。



「大丈夫なのじゃ。加奈殿だって、ろこ殿と戦いたがっているはずじゃ」


「それは、見ていてわかります。加奈さん、ろこさんと戦っているとき。とても楽しそうでした。やりがいを感じていたというのがわかります」


 ネフィリムさんもHIASOBIさんも、2人に戦ってほしいと思っているんだ。

 そうだ。こうすれば、ろこさんの心に言葉が届くはず。


 そう確信して、私もろこさんに強気な表情で話しかける。


「私も思います。加奈さん、ろこさんのことをとても大切にしているとみていてわかるんです」


「そうなんか?」



 予想通り、ろこさんの表情が変わったのがわかる。やっぱりそうだ。ろこさんは、自分

 事だけだと、まだネガティブな感情をぬぐい切れていない。でも、加奈さんのためなら、ろこさんは勇気を出して頑張れる。


 自分のためならダメでも、大切な人のためなら頑張れるタイプなんだ。それなら、そこを生かして言葉を返していこう。


「そうですよ、生き生きしてましたもん。戦っているときの その思いにこたえるのが、加奈さんのためでもあると思うんです」


「そうか? せやけど」


「大丈夫です。ろこさんと加奈さんなら、絶対活躍できますって。強いですし、結束力ありますし──一人で怖いなら、最初は私達が一緒にいますから。配信者に生きがいを感じている加奈さんのためにも、ここは勇気を出して頑張りましょう!!」




 強気な表情で、きっぱりと言ってから、ろこさんの両手をぎゅっと握る。


「気丈なふりをして、結構繊細なんですね──でも、ろこさんなら大丈夫さと思います」

「そんなことないで。うち、こう見えて怖がりなとことかあるし──意外と小心者なんや」


 ろこさんの目をじっと見ながら言葉を返す。



「でも、最後まで逃げないで戦ったじゃないですか」


「加奈を見捨てて逃げるなんて、うちには逃げなかったんや。加奈はやさしくて、困っているときに励ましてくれた。いつもうちのことを想ってくれた、それだけは出来んかったんや」


「そう、そこですよそこ。そういう、目の前の損得よりも大切な人のために動けるって素晴らしいと思います。ろこさんは、自分が思っているよりも優しくて、仲間想いで素晴らしい人だと思います」


「め、面々と言われると調子狂うわぁ~~」

 ナイスネフィリムさん!

 そして、優しい笑みでじっと目を見る。


「そうですよ。信じていますから、ろこさんの事」


 ろこさんの目が大きくほらいて、じっと見つめてくる。

 心に響いているというのが、よくわかる。このまま、押し切っていこう。


「うちを……信じる??」


「はい。ろこさんなら、きっと立ち直れると信じています」


 ろこさんの手を、より強く握る。


「だから頑張りましょう。私、応援してますから!!」


「璃緒さんが?」



「はい。ろこさんが立ち直るというのなら──私応援します。コラボだってします。だから、一緒に配信者業頑張りましょう!! それに、ろこさんの活躍を待っている人だっているんだすから。答えましょうよ、配信者なんだから」


「待っている人か。確かに、こんなうちにも待っている人はおる。応援してくれる人か。なんかわかったわ。うち──」


「そうです。私達には、待っている人がいます。応援してくれるファンがいる限り、つらいことがあっても歌い続けるのが私の使命だと考えています」




 HIASOBIさんの言葉に、どこか肩の荷が下りたのかすっきりとした表情になった。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁっ! ワイは──強い魔物なんかに、負けたりせぇへんでぇぇ!! うち、加奈とファンのために立ち上がったる!!」


 ろこさんは立ち上がった後、こぶしを強く握って言った。かなり吹っ切れたような様子。やっと、覚悟を決めてくれたのかな?



 あまりに声が大きかったせいか、周囲の視線を集めてしまう。ろこさんは、それを理解したのか、すぐに座って、顔を赤くして縮こまってしまった。


「うぅ……やっぱり、品のいいとこはうちには合わへんで……調子狂うなぁ」


「強い魔物には、負けないのじゃ──ビクンビクン」


「ネフィリムさん、どこで覚えたんですかそれ……」



「まあ、元気な方がろこさんらしくていいですよ。私達も、しっかりとサポートしていきますから。これから頑張りましょう」



「わらわも、出来ることならてつだいぞい」


 私とネフィリムの言葉に、ろこさんの表情が柔らかくなる。


「本当に、ありがとな。期待に応えられるようがんばるでぇ」


「応援してるのじゃ」


 何とか、ろこさんも戦う決意をしてくれた。大丈夫、ろこさんはとっても意思が強いから、トラウマを克服できるはず。


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