第71話 ろこさんの不安


 そして、ケーキセットを頼んでから話が始まる。



「配信者、アニメ業界──ネットの歌い手。偶然売れていくと知り合っていくものですよ」


「まあ、たまにあったり情報交換したりしてますね。そういう所から、仕事が入ってきたりしてきますし」


 私はコクリとうなづいた。


 私も、事務所に所属している以上芸能界とのかかわりがないわけではない。色々と情報を仕入れることだって重要なのだ。それに、配信者だっていつまで続けられるかわからない。思わぬ転向をすることになることもあり得る。



 その時に、その業界の人とつながりが必要になるのだ。それだけじゃなく、知名度を上げるために有名人とコラボ配信とかをして、互いにファンそのものを増やしたりすることもある。


 だから、色々な業界の人とつながりを作っていたのだ。互いにファンを作るために。


「やっぱり、一流となるとそういうことも考えているんやな。ワイも同じ配信者として、とても参考になるで」


「まあ、全力は尽くしてますが、それでも何が起こるかわからない、自分で全部何とかしなきゃいけないのがこの職業ですから、ろこさんだってそうでしょう?」


「わかるわかる。うちらも大変やしな。いろんな情報を集めて、悪評立ってるパーティーの戦闘シーンを何度もチェック。一人ひとり苦手な動きや戦い方をリストアップして、綿密に相手のスケジュールの把握をしてから、ひっそりと姿を隠して戦う。万が一無実だったことがわかって、悪さをしてへん人に奇襲なんかしたりしたら、大炎上間違いなしやもんなぁ」


「たしかに、ろこさんの戦い方や配信スタイルってそういうの大変そうですよね。神経を使いそうというか」


 ろこさんの配信は、他とは違う水戸黄門っぽい要素もあるそう言った大変なことがある代わりに「自分しかできないこと」があるというのは魅力的だ。

 配信者はたくさんいて、みんな同業者との差別化に苦労しているのだから。



「璃緒はん、うちらの動画見とったんか?」


「はい。知ってますから、加奈ロコさんの手口と戦い方、覚えておかないと痛い目を見ますから」


「うっわぁ……対策してたんか」


「対策必須ですもん。奇襲してきたら返り討ちにするつもりでした」


「うぅ……」


 苦笑いをして、コーヒーを口にするろこさん。ろこさんは──特に問題を起こしてない私たちを奇襲しようとは考えにくいけど──万が一という事もある。


 他にも、私たちを奇襲して倒して、名を上げようとしている配信者はいる。だから奇襲にだって対応している。ろこさんクラスなら返り討ちにはできるが、思いもよらない策を使って来る人はいた。こっちは、相手がどんな奇襲をしてこようとその場で対処しなければならないのだから。


「まあ、璃緒さんたちパーティーは品行方正で悪いことはしてへん、奇襲なんかしたら、ボコボコにされた挙句にうちらが大炎上間違いなしやからな。他の奴らも、口は悪いけど他のパーティーに危害を加えたりはせぇへんしな」


「そうなのじゃ。璃緒殿のパーティーの動画を見たが、困っている人を助けたり、悪い迷惑系配信者を返り討ちにしたり、まさに正統派の配信者という感じじゃったぞ」


「ほめていただいて、ありがとうございます。ネフィリムさんこそ、癖のある喋りと、強い実力がすごいと思います」


「おおっ。ありがとうなのじゃ」


 そんなところでコーヒーとケーキが来て、ケーキを食べる。


「おおっ、値段だけあって味も抜群やな。コーヒーも普段飲んでるやつより数段美味しいで」


 ろこさんは、そう言ってもぐもぐとショートケーキを頬張る。とても美味そう。


 確かに、私もモンブランを一口食べるが、チェーン店のケーキよりも深みのある味をしている。

 銀色のカップに入ったコーヒーも、本格的な味といった感じだ。


 そして、コーヒーを味わって半分ほど飲んだところで、ろこさんに視線を向ける。


「じゃあろこさん、始めましょうか?」



「な、な、なんや?」


 視線を向けられ、きょどきょどするろこさん。怖がらなくて大丈夫。今日は、ろこさんのためにこの場を用意したんだから」


「決まってるじゃないですか。ろこさん──やっぱり、戦うの怖いですか?」


「あ……」


 私が質問をすると、ろこさんはそう言って言葉を失ってしまう。やっぱりといった感じだ。


「答えを聞くまでも、ありませんね」


「そうなのじゃ」


 ネフィリムさんもHIASOBIさんも表情だけですべて理解した感じだ。ろこさん──自分な感情が顔に出やすいタイプでしょこれ。にっこりと笑顔を作って、話しかける。。


「話、聞かせてもらえませんか?」


 ろこさんが私達から目をそらし、うつむいて話始める。



「うち、不安なんや。このまま戦いを続けたら、加奈を傷つけてしまうんやないかって。うちが痛い目を見るだけならええ。こういいスタイルで戦うと決めたし、それで反撃されたら自業自得やから。けど、加奈のあの表情を見て、迷ってしまっとる自分がいる。このまま、配信者を続けてもええんかなって」

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