第36話 信じる、力
「ほら、スキありだよ!!」
俺が攻撃を殺しきれずのけ反ってしまう。そこにスキをついて突っ込んできた。目に見えないような攻撃を浴びせてくる。何とか後退しながら対応。
「させぬのじゃ!」
後方にいたネフィリムが突っ込んできた。
「甘いよ」
ザインはパッと後方に振り返って簡単に対応されてしまった。
「簡単に勝てると思った?」
俺が慌てて対応しようとすると、ザインはすぐに身体を回転させて俺の後方に移動、背中を蹴っ飛ばしてネフィリムと見合ってしまう形となる。
俺とネフィリムが見合ってしまった瞬間を、ザインは見逃さなかった。
「スキあり!!」
「させませんよ!!」
その瞬間、璃緒が反撃に出る。
璃緒の攻撃も簡単に防がれてしまうもののそのおかげでこっちの攻撃が止んだ。
それからも、俺とネフィリムは攻撃を繰り返していく。
みだりに攻撃に出てしまうと、こっちに当たってしまう可能性がある。今までも連携は気にしていたけど、雑魚ばかりだった。だから、こうした同格以上の相手にそれが通じるか不安だった。でも、俺もネフィリムも敵同士理解しあっていた存在。気が付けば、連携の制度は上がり、こっちが押し始めた。
「貴様は──周囲のことを理解せず自分が成り上がったり快楽の道具としか考えてなかった。故に、貴様についてくるのもはおず、どんな時も1人で戦うことを強いられた」
「だから、貴様にともに戦う仲間はいない」
「うるさい、どうせ裏切られるだけだ。仲間など」
魔王軍らしい発想だ。ほとんどは悲惨な境遇に育ったがゆえに信頼しあうことができない。リーダークラス以外は、力は強くても力を合わせて戦うという事が出来ずこういった展開を繰り返していた。
「だから貴様は、成り上がれなかったのじゃ。決着をつけようぞ」
「うるさい!」
動揺したのか、ザインが初めて感情をあらわにする。そしてネフィリムの方向を振り向こうとした瞬間、魔剣を持っていた手をパチンとはじいて、地面にたたき落とした。
「しまった!」
「これで決まりだ」
「最後まで他人を信じられなかった報い、受けるのじゃ!!」
俺は後ろから、ネフィリムは前から同時に攻めて切りかかる。俺はザインの胸のあたりを、ネフィリムはお腹のあたりを同じタイミングで狙い打った。少しでも高さがかち合ってしまえば、互いに攻撃を受けてしまう形となるが、不思議とそうなる気はしなかった。
「大丈夫、飛びあげれば問題ない」
「上にはわたしがいます」
飛び上がろうとした瞬間、すでに璃緒は空中に飛び上がっていた。これでザインに逃げ場はない。
「ダークイリュージョン。闇化!!」
ザインが慌てて術式を発動してくるが、関係ない。この術式は知ってる。体を闇化させるだけ。それしか手がないのだろう。
身体が物理攻撃を受け付けなくなるため切り裂けなくなるが、ダメージ自体は通る。俺とネフィリムの火力ならザインの魔力を十分切り刻める。
「集いし願いの結晶よ・今悠久の時を超え、聖なる力を放て・スターダスト・スレイシング!!」
「満たされぬ輝きの力よ、光届かぬ闇より力を放て!! ダークナイト・ブラット!!」
互いに詠唱を唱え、魔力を剣に込めた。これで絶対に、勝負を決める。
全力でザインの身体を切り裂いて、ザインの身体は数メートルほど吹き飛んでそのまま倒れこんだ。
最後の最後に、連携らしいプレーが出来た。それも、今までのような格下の相手ではなく、同格以上ともいえる強さの強敵に。
その事実に安堵する。ちょっと気が抜けてその場に3人とも座り込んだ。
ザインは、倒れこんだまま天井を見ている。さっきまでとは違い、何かを悟ったような澄み切った表情。
何か、考えているのだろうか。
「あ~あ、悔しいな」
「言いたいことがあるなら聞くよ」
「君たちはさ──信頼できる仲間もいて、ついてくる部下だっている。僕には存在しなかった周囲を引き付けて味方にする才能があった。そんな君たちに、戦いしか能がなくて、それが人生のすべてだった僕が負けた。それってさ、僕がどんなに死力を尽くしても君たちには勝てないってことじゃん」
「そんなことか」
ネフィリムは、ザインの頭を優しくなでる。戦ったとはいえ、かつての部下──考えることがあったのだろうか。
「なんだよ、裏切られ、捨てられた僕にまっとうに生きる資格なんてなかった。こうして孤独で悪の道を走るしかなかった」
その言葉、俺はザインのことを知っているから重みを感じる。国家も共同体も崩壊した社会で、家族も愛する人も殺され自分の力以外信じられなくなったんだっけ。
「やはりわからなかったな。苦しみもなしに、部下がついてくるわけがなかろう。何の決意も覚悟もなしに、まっとうな道を歩けるわけがなかろう。じゃから、お主はいくら強くなっても高い地位を上げられなかったのじゃ」
「え──」
「貴様に重い過去があるのは知っている。しかし、重い過去を持っていたのは貴様だけではない。澄人を認めた王子は、何度裏切られて、味方に殺されそうになっても周囲を信じていた。それだけではない、誰もが故郷を失っても、親友に裏切られても最後まで戦った者もいる。敵ながら、その信念はあっぱれなものだった」
ネフィリムが言うと説得力がある。
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