第37話 足りなかったもの

 俺たちの仲間はみんな、不遇な生まれながらも仲間たちのためなら犠牲もいとわない強い意思もあった。だから、みんなついてきたし正しい道を歩むことができた。そして最後まで戦い抜いたのだ。


「そうだな、お前に強さがあったのは認める。でも、それだけでは限界がある。ずっと1人で戦ってきた今の戦いと一緒だ。だから、信じあって戦ってきた澄人たちに勝つことができなかった。それが最後まで、理解しきれていなかったように感じる」


「かもしれないね」


 まあ、今まで共にしてきた価値観を変えるという事は簡単ではない。少しずつ、変えるしかないと思う。

 すると、倒れこんでいた璃緒が起き上がってこっちを向いた。優しい笑みを向けて言う。


「なんとなく、感じるんです。あなたは、変わることができますよ。すぐには出来なくても、他人を信じようと努力し続けていれば、必ず親しい人は出来ます」


「礼を言うよ」


「信じてますよ。そしたら、また正々堂々と戦いましょう私の仲間たちと」


 璃緒は、どこか嬉しそう。強敵と出会うとワクワクするタイプなのかな? ザインはただ天井を見ていた。少しは理解したのだろうか。


「考えさせてくれ。色々と」


「1人にさせてやってくれ。感情を整理する時間も必要じゃろうしな」


「よくわかってるねネフィリム。君たちの健闘を祈るよ」


「まあ、今まで持っていた価値観を変えるのは簡単なものではない。どうして自分が2回も敗れたのか、考えて答えを出すがよい。信じておるぞ」


「俺もだ。仲間たちを信じていれば、きっと答えは見つかると思うから」


「わかったよ」


 俺も、ザインのことが心配になって一言声をかける。

 シュンとした表情のザイン。複雑な気持ちだというのがわかる。何とか考えが変わってくれるといいな。そんな気持ちでザインを見ていると、ネフィリムが立ち上がってパンパンとお尻を叩く。


「じゃあ、そろそろ出発するぞい。長居は無用じゃ」


「そうか」


 名残惜しさはあるが先へ行かなきゃ。視聴者だって退屈しちゃうし、先の道でもやることはある。


「この後は、どうする?」


「とりあえず、配下のモンスターたちと一緒に人間たちと戦いをしてみるよ。あ、BANされたらたまらないからね。殺さないようにだけは伝えてある」


「そうか、少しでも理解しあえたら良いな。人間とも、モンスターとも」


「最善は尽くすよ」



 以前のザインなら、こんな事言わなかった。少しは変わったのだろうか。彼が心を入れ替えてくれるのを祈ろう。


「こっちこそ、おまえの健闘を祈るよ。なんだかんだ部下だっているんだろ。大切にしろよ」


「簡単に言うなよ。僕も僕の部下も、まともな世界じゃ生きていけねぇやつばかりでね。お前たちが勝ち続けるという事は、僕たちが住処を失うという事なんだよ」



 ザインの表情が、少しだけ暗くなった。やはり、部下のことが心配なんだろ。悪事をしたら罰を受けるのは当たり前だけど、居場所まで失ったら失い物がない人たちは居場所を求めてどんなことでもするだろう。


「住む場所なら分け与えてやる。そち達のようなはぐれ物でもそれなりに生活できるよう手配してやる。だから危害を加えることは許さぬ」


 心配していたら、ネフィリムが話に割り込んできた。

 流石は魔王をしていただけのことはある。そう言った所のケアも慣れているし、ザインのように道を誤った者の扱い方も心得ているのだろう。


「それはありがとう。君たちの健闘を祈るよ」


「そっちこそ、活躍を期待してるよ。またどこかで会おうね」



「そういえば、これ受け取ってよ」


 そう言って、ザインは何かを投げてきた。手に取ると、金色でできた鍵があった。


「セラフィールの元に行きたいなら、それが必要だ。持っていきなよ」


「ありがとうなのじゃ」



 そして、俺たちはこの場を後にした。誰だって、今までの生き方を急に変えろと言われてもできるはずもない。ましてや、平和な時代に生まれた俺たちと違って壮絶な人生を送ってきたもののことなど。だから俺たちの世界で共存するというのは不可能だというのはわかる。


 居場所がなかったら彼らは戦って力づくで襲ってくるだろう。それだけは気を付けないと。


 世の中には、どうしたって共存ができない関係というのがある。人の死が特別なものだった平和な世界の人間と、争いが絶えず死が隣り合わせになっている世界の倫理観は違う。


 豚肉を愛して様々な神様を信仰する集団と、豚肉を禁じて一つの神様を信仰する集団を一緒にしたら、絶対に争いになる。


 それを理解したうえで別々の世界に住んで、時には協力しあえたらいいだろう。再び薄暗い道を歩き始め、ダンジョンを進んでいく。特にモンスターなどはいない。


 しばらく歩いていくと、明かりが見え薄暗い洞窟の出口らしきものが見つかった。あの先に何があるのか、とても楽しみだ。


「さあ、行くのじゃ」


「はい」


 洞窟を抜けた瞬間、周囲が光に包まれた。一瞬だけ、生暖かい空気が体を包んだ。

 そして、視界が開けていく。



☆   ☆   ☆


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