第8話 ドメニア帝国の将、ゼルゲア。

 ホムラはコモレビの町へと全速力で駆けており、息を切らしながら火山の洞窟の中で聞いた話に出てきた国、ドメニア帝国について思い返していた。


 ドメニア帝国……。


 それはこのドルストア大陸で最も“悪名高い”帝国であり、その名を聞けば知らぬ者はいない程の大国である。


 ドメニア帝国の王は国民には多大な人気を誇っており、その力による政策と戦の際には常に前線に立つことから“凶王”と呼ばれ、恐れられているが、そんな王の配下には“妖天ようてん”、“死銀姫しぎんき”、“腐海ふかい”、“蛮王ばんおう”の四天してんがいる。


 他にも異名として名が売れている者達がいるが、ブライとホムラの見たゼルゲアという男、彼も恐らく相応の実力者だという事をホムラは何故か分からないが理解できた、出来てしまった。


 だからこそ、だからこそ彼はホムラはひた走るのだ。


 そして、コモレビに辿り着いたホムラは鑑定屋の扉を勢い良く開けた。


「『バンッ!!』はぁ、はぁ……!お、おじさん!!」


「ん?ホムラ、どうかしたのか?」


 慌てて入ってきたホムラに鑑定屋の主人は怪訝そうに見る。そんな中でホムラは、息を切らしながらも彼に伝える。


「はぁ、はぁ……!が、ガルニカ火山にドメニア帝国の奴等が……!!火山を噴火させるって!!!?」


「なっ!!!?ほ、本当なのか!!?」


「うん!?間違いないよ!!今、その火山にゼルゲアって奴が!!」


「ぜ、ゼルゲアぁっ!?ゼルゲアってまさか……!?分かった!俺が町長に報せるから、お前も逃げれるようにしろよ!!?」


「う、うん!」


 店主が店を慌てて飛び出し、コモレビの町の町長の下へと走って行き、ホムラも避難しようとしたが、ホムラはブライの事が気になり、彼の下へと走ったのであった……。


◆◆◆


 その頃、ブライはというとドメニア帝国の将、ゼルゲアとの戦闘を行っており、その戦闘は苛烈を極めており、周囲にはブライによって倒された兵士たちが倒れ臥している。


 ブライの竜刀とゼルゲアの戦鎚がぶつかる度に火花が散り、その度にブライに体格で勝っている筈のゼルゲアは圧されている事に驚いていた。


「ぐぅぅぅっ!!!?馬鹿な、この俺様が体格で勝っている筈の俺様が!!?」


「よそ見としてる余裕あるの?」ブンッ!!


「うおおっ!?ちぃっ!?このガキっ!!「お~い!!」ん?!」


「ホムラ、なんで!?来るな!!!」


「えっ……?」


 ホムラにブライが叫ぶがゼルゲアはホムラに向かって凶悪な笑みを浮かべると、戦鎚を振り上げており、ホムラへと振り下ろそうとしていた。


 ホムラは咄嗟に目を閉じたが、戦鎚が自分に来る前にギィィンッ!!という金属音が響き、恐る恐る目を開くと、そこにはゼルゲアの戦鎚を竜刀で防いでいるブライがいた。


「くっ!?この、野郎!!」


「なっ!?お前!?」


「はははっ!!まさか助けにはいるとはな!?放っておけば良かったのに、よぉっ!!!」ガンッ!!


「ぐはぁっ!!?」


「ブライっ!!?」


 ブライは戦鎚の振られた剛力で岩壁に叩きつけられてしまい、体に走った衝撃で頭から血を流して倒れる。そんなブライにホムラが駆け寄る。


「おい!おいっ!?大丈夫か!?おいっ!?」


「ふぅ、お前が来てくれて助かったぜ。おかげでそのガキをぶっ飛ばせたぞ。それにしても、まさかと同じようになるとはなぁ?」


「あ、あの時……?何を言って……!?」


「おいおい忘れちまったのか?お前がまだガキだった頃、正確には6年前かぁ?お前の親父、と同じだって言ったんだよ。」


「え……?お父さ、ん…………!!?」


 ホムラはそこでゼルゲアを改めて見る。


 ゼルゲアの持つ戦鎚、その持ち方と父グレンが死ぬ前に聞いたを思い出した……。


『お父さん!!?お父さん!!?お父さん!!?』


『哀れなガキだな。今殺してや……!?ちぃっ!!』


 ホムラはゼルゲアを見上げて全て思い出し、理解した。


 父を殺したのは、目の前に立っているだと言う事だという事を。それを知ったホムラはゼルゲアに殴りかかったが、逆に横っ面を殴られてしまい、転んでしまう。


 それでも顔を上げると、ゼルゲアを睨み付ける。


「どうして、どうしてお父さんを殺したんだ!!!!?」


「何だ、知りたいか?なら教えてやるよ。……俺とグレンは元々同じ町の生まれでな、2人とも貧乏だったが、それでも仲良くやってたよ。そんで俺とグレンは同じ国に雇われ兵士として仕えていた。あいつは双剣、俺はメイスで戦い、何時からか期待されるようになったんだが、なぁ!!!」ゲシッ!!


「がはっ!!?」


 ゼルゲアはホムラの背中を力一杯踏み、さらに彼の手にメイスを押し付ける。


「だが、国はあいつを優遇した!!理由は簡単だ!!あいつが、その国の王と姫を助けたんだ!!それだけで奴の株は上がり、将にまでなった。だが奴は見合いの話を蹴って、国を出ると立場も捨てて、鳥の亜人の女と結婚した!!“ユウヒ”とかいうな?!まぁ最後はでくたばったがなぁ!!?」


「なっ……!?ユウヒって、俺の死んだお母さん……?でも、何で毒なんて……まさか!!?」


 ホムラが察したようにゼルゲアを見上げると、ゼルゲアは高らかに笑う。


「あははっ!!そうだよ、そのお前の母ちゃん殺したのはだよ!!あの女、お前を護るために毒に気づいて自分の残された体力振り絞って産んだらしいな?まぁでも死んでちゃ笑えねぇがな!!」


「このっ……ぐっ!!?」


「ユウヒが死んだ後、俺はグレンに国に戻るように言ったんだぜ?だがあの馬鹿はお前を1人に出来ないから行かないとか、俺はもう関係とか抜かしやがってよぉ!!はははっ!!……馬鹿だよなぁ!!王様もよぉ、戻れば全部水に流して迎えるとか言ったのによぉ。だがまぁ、おかげで奴をぶち殺す計画も立てたのが無駄にならなかったしな?」


 そう言うとホムラの髪を掴むと岩壁に叩きつけて、腹を蹴り飛ばすゼルゲア。その目には狂気が宿っていた。


「あのバカの、グレンせいで俺はずっと比べられてきたんだ。戦で戦果を挙げても、グレンの功績と比べられる。それが屈辱だったが、その国を滅ぼした帝国様に取り立ててもらって、今じゃ俺はよぉ!!!……だがよぉ。」


 ゼルゲアは戦鎚を持ち上げてホムラを見下ろす。


「グレンのは……壊しとかないなぁ!!!!」 


「なっ!!!?」


 ゼルゲアは戦鎚を振り下ろしたのであった……。

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