第3話 水の試練。

 水の印が彫られている扉を潜ったブライ。そこは大量の水で満たされた空間であり、まるで本の中で読んだ海のような場所であった。


 そんな彼の真正面の視線の先には、美しいウェーブのかかった黒髪と魚のヒレのような耳、そして、魚の下半身をしたシクシクと泣いている女性である。


 ブライはそんな彼女に話しかけた。


「あの、お姉さんが魔人?」


「あらぁ、可愛い坊やねぇ?お姉さん、レインって言うの。お姉さんね、今まで男の人に444回もフラれたのよ?しかも、中には見世物みたいに晒されたりもしたわ……!」


「?これって…………?」


 ブクブクッ!と周りの水が音を立てて泡立ち始め、さらにそれ呼応するようにレインの髪の毛がゾワゾワッと浮き始めた。



「だからね?男の人とかを見ると……………………殺したくなっちゃうの!!!!」


 そう言うとレインは辺りの水を獰猛な牙の生えた魚、鮫へと変えるとブライに襲い掛からせる。


 ブライはそれを剣で斬ろうとしたが、相手は元が“水”であるために斬っても手応えが感じられなかった。


 そんな鮫の大群にブライは逃げ回ることしか出来なかったが、それを見たレインは楽しそうにせせら笑っているのだ。


 ブライは逃げる中で何とかこの状況を打開しようかと考えていると、レインの水鮫のヒレが、自分の腕に掠り、その瞬間に鋭い激痛を感じた。


「~~っ!!?」


 その痛みは凄まじく、以前に包丁で指を切った事のあるブライでも比較にならない痛みであった。そんなブライにレインは楽しそうに笑いながら話始める。


「痛い?まぁ痛みなんて知らなそうな坊やにはキツい痛みだよね?その水鮫の体はね、全てが鋭い刃なの。少~~し掠っただけでも切り裂かれるように痛いの。」


「うぐっ…………!!」


「痛い?泣きたいくらい痛いよね?でもね、世の中には“痛み”なんかよりも辛いことは山ほどあるんだよ。“親から捨てられる”。“友達に裏切られる”。“騙される”。“見捨てられる”。そういった事の痛みの悲しみが沢山あるんだ。まぁ、坊やみたいな子供には分からないだろうけどね。」


「……辛いこと、なら、オレもあるよ。」


「え…………?」


 レインはブライの言葉に拍子抜けしたような顔つきになり、彼を見るがブライは構わず続けた。


「オレも、お母さんに怒られたり、お父さんに怒られたり、友達と喧嘩したり、悲しいことも沢山あったよ。でも、それでも悲しいなら泣いて、それで次に行けば良いと思う!」


「っ~~!!子供に…………何が分かるって言うの!!!!!?」


「竜白雷!」


 レインは涙を流しながらブライに向かって襲い掛かる。水鮫の大群をブライに向かわせて攻撃しようとしたが、ブライは母カーラから学んだ魔法でおうせんする。


 白い長い体をした龍を模した電撃は水鮫の大群を撃ち壊していき、最後はレインに剣を降り下ろした。5歳のブライの力では大した傷は付けられなかった。


 しかしそれでも、レインの体を傷付ける事が出来た。


 その瞬間、ブライの体は後ろに強く引き寄せられ、扉から出るとその試練を受けていた扉が消えたのであった。


「あれ?なんで……?」


『試練をクリアしたからな。我の力で引き戻した。』


「え?試練をクリアした?え!?やった!!やった!1つクリア出来たんだ!」


『うむ、出来としてはまぁまぁではあるが、よくやったほうだな。だが、実戦では相手を倒さねばならない。それに慢心……油断せぬようにするのだぞ。』


「は、はい!」


『試練はあと5つある。体を休める場所もあるから、次に備えるのだ。』


 ブライはムフェトからそう言われると部屋へと案内された。部屋は簡素ながらしっかりとした物で、ベッドで休むことにしたのだが、初めての試練を終えたことで疲れたブライはそのままベッドで眠りについたのであった……。


◆◆◆


 それからブライは3日ほど深い眠りについたが、4日目には全快になっており、ムフェトが用意した大量の食事、約3日分を全て食べきり試練へと向かうのであった。


『3日寝たと思ったら、まさか今日で全快するとはな?』


「そうかな?でも、寝たら元気になったんだ!今なら何だってやれる!!」


『ほう?そいつは結構なことだ。ならば次の試練も大丈夫だろう。一応剣も強化してある壊れにくくしてあるから、やってみるが良いさ。さぁ、賽を振れ。』


 ブライはムフェトから渡された賽を振るうと、今度は“火”の印であった……。

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