水守《みずもり》の巫女《みこ》の件《くだり》

 ここ、花のみやこ鹿児島かごしまには、人ならざる者、神、鬼神きしん人外じんがいあやしの者どもが闊歩かっぽしております。

その気性きしょう様々さまざまで、人に負けずおとらず無頼ぶらいやからもいるのです。

 こうした者共ものどもには、N岡警部けいぶの配下の者達では流石さすがに歯が立ちません。

 そこであると所へ電信でんしんにより、事の次第しだいつた御出座おでまし願うのであります。



 小山こやまります水神すいじんやしろいにしえよりそのとそのを受け水守みずもり家。

 ほかの家は男子をとしますが、水守みずもり家は女子をするのであります。

 この神社じんじゃまつ水神すいじんは人とまじわり、女子はその血を受け巫女みことなるのです。

 巫女みこ代々だいだい異能いのうの者をしたが水神すいじんに願いをとどけると、その身を依代よりしろ水神すいじんくだるのです。



 異能いのうの者は神がくだるまでの合い間、巫女みこ守護しゅごするのがお役目、当代とうだい巫女みこにはめぐると言う者が付いております。

 依代よりしろとなった、巫女みこの負担は大きく、やれ腕がだるい、やれ足が重い、眠れぬほどに腰が痛いだの、めぐるに腕をませ、足をさすらせ、腰にはおきゅうをする。

いやはや何とも目をおおう光景であります。



 巫女みこ水神すいじんの力をりてあらぶる者達をいさめるのでありますが、さとして聞かぬ者共ものども手心てごころはありません。

 霊験れいけんあらたかな神通力じんつうりき宿やどす、一振ひとふりの御神刀ごしんとうかぴまるつのです。

 かぴまるくかぴじるれたが最後、しき心ある者は神、鬼神きしんであろうとも鬼天竺鼠おにてんじくねずみに変えられ、改心かいしんするまで元には戻れません。



 神が改心かいしんせぬ時は未来永劫えいごう戻れず、まことに恐れられているのです。

 かた古流こりゅうあらず、N岡警部けいぶ直伝じきでん示現流じげんりゅう

 大上段だいじょうだんかま一閃いっせんしたとおぼしき時には遅く、先日などはN岡警部けいぶと配下の者達に掛かり、全員が鬼天竺鼠おにてんじくねずみへと変わり七日七夜元へ戻らず。

N岡警部けいぶは、出来る事なら呼びたく無いと思うのであります。


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