怪盗《かいとう》サクヤの件《くだり》

 ここ、花のみやこ鹿児島かごしまには、その姿が何処どこにいても見えると言う、西洋の経典きょうてんにある様な高い高い塔が御座ございます。

 今その最上階から下界げかいを見つめる者が一人。

 市井しせいでは義賊ぎぞく怪盗かいとうサクヤと呼ばれ、この男のしんの姿を目にした者はいないのであります。

 えっ、正体を誰も知らないのに、何故なぜ男と分るかですと。



 それはこの者のこだわりなのでありましょうか、押し入る先の家人かじんふんするのですが、必ず義兄ぎけい実兄じっけいになりすまし、義妹ぎまい実妹じつまいの者をたぶらかすのです。

 人妻ひとづま快楽かいらく坩堝るつぼに引きずり込む。



 いまだ春を知らぬ乙女おとめには、そっと肩を抱き温もりと、耳元に微風そよかぜが運んで来たかの様なかるやかな小鳥のごとささやきを。

 恋をかてつぼみふくらみ色付いろづき、頃合ころあいをみてその腕の中におさめ、じらう唇に情熱じょうねつのベーゼで花咲かせ、き出るみつを味わうのであります。



 いもうとの心とその家が困らぬほどに金品きんぴん失敬しっけいし、市井しせいの暮らしにきゅうするやはり妹達にくばって歩く。

 勿論もちろん、花のみつを味わう事を忘れはしません。

 乙女おとめ達はこのうわさを聞き広め、貴族きぞく華族かぞく市井しせいへだたりなく源氏げんじきみなぞらえ、源氏げんじ兄様にいさまと呼びした有様ありさま



 中には、

 『嗚呼ああ源氏げんじ兄様にいさま、わたくしの身も心もぬすんで行って下さいまし、・・・きゃっ』

ほほを赤らめる御令嬢ごれいじょうまでいるとかいないとか。

 はてさて、次にねらわれし妹は何処いずこに。


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