第4話
あれから一夜は歩いただろうか。あるいは三時間ほどだっただろうか。もしかしたら一時間程度だったかもしれない。背景がずっと夜のままなので、時間の経過が良く分からない。
階層を跨いでいく毎に、周辺の建物が大きく変わっていく。より色合いが鮮やかになっていき、建造物がお洒落になっていく。西洋風のレンガチックな建物から、古風な日本式の瓦屋根の家、はたまた高層マンションなどが建ち並んでいる。
まるで大量のレゴを持て余した子供の創作物みたいだ。
誰かがこれを作っているのだろうか。
いや、考えてみれば当たり前か。現実世界のものだって、誰かが作ったものなんだから。当たり前のように享受してきたから自然物みたいに思えてただけで。
それは異世界でも同じか。まだ建築技術は、現実世界のそれに追いついていないのかもしれない。
そんな出来損ないな町の中で、ふと、人を見かけた。
「見ない顔だな。お前、誰だ?」
初めて声をかけられた。
心地よさそうな金髪の青年がそこに立っていた。
異世界風の、日本人ぽくない顔立ちに、おおっと声が出そうになった。
色白金髪碧眼の美少年だ。エルフみたい。
……と、そうだ俺は名前を聞かれてるんだった。
名前、名前かぁ。ゲームで使ってるユーザー名で答えよう。
「リヴィーズ」
ふぅん、と、名前を聞いた割には興味なさそうに男は生返事を返した。
「あんた、新参者だろ」
「それ、どういう意味ですか?」
「この世界に来たばっかりなのかって意味に決まってんじゃん」
「……? どういう意味ですか?」
「あー、何も知らない感じね。オーケーオーケー」
なんか上から目線で腹立たしくなるな、こいつ。
見た目はこんな好青年なのに、中学生の子供みたいな態度だ。
性格と外見が一致してない。
「この世界はな、どうも現実世界から転移してきたやつらばっかりなんだよ。お前だって日本……じゃなくても、少なくとも『地球』からやってきたんだろ?」
「あー、そういうパターンすか」
「集団転移ってやつだよ。知ってる?」
集団転移。多くは修学旅行先で、とか、クラス全体で、とかそういうのが鉄板だが、この男は『地球』と言った。
かなり大雑把なくくりで寄せ集められているのかもしれない。
……俺が交通事故に遭ったあの瞬間に、集団転移が起こった?
まぁ、俺以外のやつが何してるかなんて、どうでもいいか。
「簡単に説明してほしいんですけど、ここ、どんな世界ですか? レベルアップとか、ジョブシステムとか、スキルツリーとか、そういうのないんですか?」
「そんなもんないじゃん。つーか、いらないじゃん。そもそも俺たちゃ何でも作れるし、できるじゃん」
確かに、それはさっきから実感している。つうか、じゃんじゃんうるせぇな、こいつ。ジャンジャンゼミかよ。
何でも作れるし、何でもできる世界。
俺たちは全員が全員、異世界から来たスーパーマンってことだろうか。
「ところで、この世界に住んでる人たちはいないのか?」
「何だお前、まだアモクに会ってないのか」
「アモク?」
「この夢世界に原住していたやつらに決まってんじゃん。姿かたちはよく分かんないけど、まぁ、ゲームでいうところのモンスターみたいなもん。そいつらがその辺にいるじゃん。まぁ、この辺のは狩りつくしちまってるけど」
と、ジャンジャンゼミはなぜか誇らしげに語る。
さっきの影みたいなやつとか、オオカミみたいな魔物のことだろうか。
あれか原住民だとすると、文明のレベルなどタカが知れているのだが。
それとも、ああいうのを討伐してお金を稼いだりしているギルドみたいなのがあるのだろうか。
「人間の町は?」
「ねぇよ、そんなもん。全部ぶっ壊されるに決まってんじゃん」
「ふぅん?」
「もしかしたら『下層』には、あるかもしれないけど、俺は見たことないじゃん?」
ジャンジャンゼミにそう聞き返されたが、俺はお前のことを知らない。
下層と言ったか。さっき階段を下りてきたけど、何か意味があるんだろうか。
まぁ、ドラクエでも橋を渡ったりダンジョンで階段を降りると急に敵が強くなったりするしな。最初に出てくる雑魚敵はスライムみたいな手足すらないようなやつらだけど、進むにつれて人型に近づいていくものだ。竜王とかもう魔物っていうか、魔人だし。
「じゃあ、下層に行かなきゃな。どこにあるんだ?」
「えっ、あ、あぁ。まぁ、向こうにあるよ。結構遠いと思う」
「急に歯切れが悪いな」
「うるせぇな。行くなら勝手に行けばいいじゃん」
……?
何か怖がっているようにも見える。
下層に行くのが怖くて、ここでちまちまレベリングしてるのだろうか。みみっちいやつだな。
「じゃあ、自由に行かせてもらうぜ」
外見と性格が全く一致していない美少年を後に、俺は彼が指さした方向へ歩を進める。
俺は日和ったりしない。より強いモンスターが出てこようが関係ない。さっさと下層に向かわせてもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます