第110話 不動産屋

 翌朝、歩いて教わった不動産屋に来た。

「すみませーん」

「はいはい、いらっしゃい。どんな物件をお探し?」

 男の店員が出てきた。この人が店長かな?


「明後日学院を受験するんですけど、合格したら寮じゃなく家に住む必要がありまして‥‥‥」

「ほほう、なるほど‥‥‥学生さんね。こちらの用紙にお客様情報を記載してください」


 えっと本人と同居人の名前、種族。希望の部屋タイプ、他希望内容‥‥‥か。


 本人は俺だな、エドガーっと。種族はヒューマン。同居人のティナ(ノナン族)、ロキソ(ドワーフ)、フルル(エルフ)と。

 部屋タイプは四人で住むからそれなりに広くないとな、誰か泊めたりするかもしれないから4+1部屋か。みんなで飯を食うダイニング、寛ぐリビング、シャワー室にトイレは二つあった方がいいな。

 ロキソの為に鍛冶が出来るようなスペースも欲しいよな。フルルの為の射撃スペースもあった方がいいか?

 うるさくなるかもしれないし密集してる所じゃない方がいいかな?


「‥‥‥と、こんなもんか。はい、お願いします」


「‥‥‥お客さん、バカにしてんの? こんな物件、学生が借りられる訳ないだろうが? 冷やかしなら帰んな!!」

 記載された内容を見て子供がふざけて冷やかしに来たと思われたみたいだ。まぁ普通ならそうか。

 ティナ、懐のガバメントから手を離して。


「‥‥‥しかもノナン族? 家主が嫌がるんだよ、ノナン族は! それにドワーフはまだいいとしても、エルフだって? あんた、本当に見た事あんの?」

 ‥‥‥あー、忘れてたわ。王都でのノナン族の扱い。差別の対象だったもんな。


 うーん、しかしこいつの態度からしてここは利用したくなくなったな。別のとこ探すか。


「わかりました、結構です」

「あぁ、とっとと帰れ! こっちは遊びじゃねぇんだよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 エドガー達が出て行った後‥‥‥。


「全くふざけやがって‥‥‥。あ、店長。おはようございます。見てくださいよ、このふざけた内容を‥‥‥。朝一から冷やかしですよ」


 お茶の入ったカップを片手に用紙を受け取る店長と呼ばれた男。

「そりゃ災難だったな。どれ‥‥‥って。ははっ、こりゃあひどいな」

「歩いてくるような普通民のくせにこんな家住める訳ないだろ。冗談にしても面白くないし‥‥‥」


 一般的に貴族は馬車で移動し、普通民は歩きで移動する。それも間違いではない。


「ノナン族じゃ借りるのは無理だろうな。買うか、建てるかしないと。ドワーフにエルフってのもウケるな」

「エルフなんて見た事ないですよ。あー! 全く朝からついてねー!!」


「‥‥‥ほら。別のお客が来たぞ。今度は馬車だから貴族だ。気を取り直して接客頼むぞ」

「はーい」


「‥‥‥全く今時こんなイタズラをする学生がいるんだな」


 馬車を停めて降りてくる。

「いらっしゃいませ!」

「ウェストール辺境爵家執事長のセバスと申します。エドガー様達はこちらにいらっしゃいますかな?」


 お茶を口に含みながら店長は思った。

(エドガー‥‥‥? どこかで見たような)


 手に持っていた普通民用の用紙を再度見て店長はお茶を噴き出した。

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