第103話 受験の不安

「な、なんとかなりますわよ!?」

「ど、どうかな‥‥‥? 学院の試験は実技試験重視だって言うし‥‥‥」


 やばい、受かる気がしないけど‥‥‥。受かるわけのない試験なんてわざわざ受けなくてよくない?


「‥‥‥オレが推薦状に一筆書いておこう。そう案ずるな、なんとかなるだろう」


 大貴族様からの圧力みたいでなんだか気が引けるけど‥‥‥。スキル試験の点数が望めないのだから仕方ないか‥‥‥。


「ありがとうございます」

「その代わり学科試験は頑張れよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌朝‥‥‥。

 朝食の準備をティナに頼み、宿の方に行ってご一家を待つ。

 さすがに部屋に入るわけにはいかないからな。昨夜のうちに朝食の時間だけ伝えておいた。

 

 ご一家揃って時間通りにやってきた。


「おはよう、エドガー」

「おはよう、エドガーくん」

「おはようございます、エドガー様」


「おはようございます。よく眠れましたでしょうか?」


「ベッドでなく畳に布団という寝具だったがなかなか良かったぞ」

「あの畳、気に入りましたわ。是非我が家にも畳の部屋が欲しいわね」


「朝食の準備が整っております。どうぞこちらへ」


 夕食の部屋と同じ部屋に案内する。

「ほう、これはまた見たことのない朝メシだ」


 朝食は白ご飯、味噌汁、トラウモンの塩焼き、野菜の浅漬けだ。

 箸は使えないだろうからフォークとスプーンにした。トラウモンの塩焼きはほぐして骨を抜いてある。箸じゃないと抜きにくいからな。


 ちなみにお相伴する俺のお膳だけは箸があり、トラウモンも切り身の形のままだ。


「いただきます」

 前世の記憶が戻ってからは「いただきます」と「ごちそうさまでした」だけは欠かしてない。なんとなくやらないと気持ち悪いから。やはり根は日本人なのだろう。


「エドガー、それ夜もやっていたな」

「まぁ‥‥‥、お祈りの一種です。癖のようなものです」

 これをやるのは俺の他はティナだけだ。


「祈り‥‥‥どういう意味があるんですの?」

「まぁ、作ってくれた人に対する感謝とか食事が出来る事に対しての感謝とかあとは『食材』に対して‥‥‥ですかね?」


「食材に対して?」

「食材というのは動物植物問わず生命であります。その食材の生命いのちを貰うことで我々は生きていける訳ですので。それで『生命をいただきます』という感じです」


「なるほど、その一言にいろいろ詰まっているのね? 深いわね‥‥‥」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 朝食を終えて、午前の視察、クリスタルハウスでの野菜採り体験も済んだ。これからご一家はお帰りになる。

 村民一同お見送りだ。


「ゲオルグ様、イザベラ様。こちらお土産にお持ちください」


 オリザ酒をマグナムサイズのボトルに一本ずつ。

「エリーゼ様、受験頑張ります。今からおいつきますからね、エリーゼ様も頑張ってくださいね」

「わぁ! ありがとうございますわ。こちらからは試験用の問題集を複写して送りますわね」


 エリーゼ様にはインクの要らない魔力ペンをプレゼントした。普通のペンの様に持つと文字が書けて、書いた文字に指先で魔力を流すと消える仕組みだ。魔法陣を描く時は使えないな。


 プレゼントを馬車に預けてエリーゼ様が戻ってくる。

「‥‥‥エドガー様、ちょっと真っ直ぐに立ってもらえますの?」

「? はい」


 言われるがままにエリーゼ様の横に立つ。

「‥‥‥やはり。以前お会いした時よりも背が伸びてると思いましたわ。きっと次に会った時はもっと伸びてますわね」

「そうですね。エリーゼ様に背も抜かれない様にしないとですね」


「エリーゼ、そろそろ行くぞ」

「はいですわ。ではエドガー様、ごきげんよう」


「お気をつけて! 今度は試験で会いましょう」


「出立!!」

 ご一家を乗せた馬車と騎士隊は動き出し、メッサーラへと帰っていった。

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