第89話 ライフルの献上

「陛下、先程のもので気になったものはございますか?」

「そうじゃな、モンスター共を駆逐した『ライフル』という魔道具が気になった。実物はないかの?」


「‥‥‥馬車にございます。お持ち致します」

 テオドール村を出る時に予想はしていた。もともと謁見するにあたり何か良い手土産を、と相談したところ村長にライフルがいいはずだと言われた。


 馬車に戻り綺麗な箱に入れたライフルを持っていくと、陛下達は中庭に移動したという。中庭に案内される。


 中庭も広いな。ここだけで実家が何軒も入るよ。ここに王女様はいなかった。


「エドガーよ、こちらじゃ。早う見せよ」

「かしこまりました」

 

 ライフルの入った箱を両手に持って陛下に献上した。戦国時代、日本の権力者に火縄銃を持ってきた外国人もこんな感じだったのだろうか?

 受け取りお付きの人に持たせて箱を開けてライフルを取り出す陛下。


「ふむ‥‥‥帝国で作られているマスケット銃に良く似ておるの」

「え? マスケット銃があるのですか!?」


「ん? マスケット銃を知って真似て作ったのではないのか?」

「いえ‥‥‥存じませんでした」

 構造も全然違うし‥‥‥。


「おい、そこの。マスケット銃と軍務卿をここへ。今すぐだ」

「はっ! 少々お待ちを!!」


 なんか大事になった?

 軍務卿とか王国のめちゃ偉い人なんでは?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「お呼びですか? 陛下」

「うむ、苦しゅうない。忙しいところを急ぎ呼び立ててすまぬな。これを見てみよ」


 入ってきた人は王都の英雄、レオン・クラウディウス二爵。王国の軍務を取り仕切る一番偉い人だ。

 若くして王都の軍務卿にまで上り詰めたエリート貴族様だ。ちなみにうちの親父殿はこの人の部下の部下の腰巾着だ。


「これは!? 新型のマスケット銃ですか?」

 やはりマスケット銃は存在するらしい。


「これはの、そこのエドガーが作ったものらしい」


「なんと、この少年が!? ふむふむ‥‥‥よく見ればこれはマスケットとはいろいろと違っておりますな」

 さすがは軍務卿、違いにすぐ気づいたか。


「エドガー、説明してやってくれ」


「エドガー・テオドールと申します。クラウディウス軍務卿、お初にお目にかかれまして光栄です」

「エドガーくん。畏まった挨拶はよい。説明してくれんか?」

 軍務卿も挨拶や形式よりも実務派らしい。ゲオルグ様みたいだ。


「わかりました。では‥‥‥」


 このライフルの説明をしていく。大きな違いはライフリングの有無と弾の装填方式だ。


「弾は入っておりませんので、銃口を覗いてみてください」

「ふむ‥‥‥、何か螺旋状に溝があるように見えるが?」


「その通りです。その螺旋状の溝によって弾が旋回運動します。その弾はこちらです」

 ライフルの弾薬を取り出す。


「随分と変わった形だ。これが飛んでいくのか?」

「この弾薬のこの先端部分、弾頭だけが飛んでいきます」


「この形状とその旋回運動に何か意味があるのだな?」

「さすがです、クラウディウス卿。この形状の弾頭がこの様に旋回して進む事で弾道が安定して真っ直ぐに進みます」


 マスケット銃の弾は球形、こっちは円錐に近い形をしている。

 そしてマスケット銃はライフリングがないので弾に変な回転が掛かる。それにより弾道が安定せず、真っ直ぐ飛ぶこともあるが野球の変化球の様に曲がったり落ちたりもするのだ。

 つまり命中率に大きく差が出る。


「‥‥‥ここまでの事をこの少年が! これは間違いなく帝国にもない新技術だ!!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る